俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

別の犬


ラブを引きだすと決めたとき、世田谷のセンターで私の関心はむしろ別の犬にあった。

その日、いちばん奥の犬舎に、純白の堂々たるグレート・ピレニーズがすっと立っていた。
体重50kg以上はあろうかという巨体だった。
ゆったりとした貴族的な美しさにまず心が惹かれたが、印象的なのはその目だった。なんともいえない知的な繊細さが感じられた。
同行していたPerroの引き出し責任者の女性が犬舎に入って、後ろから急に抱きすくめても、迷惑そうに振り返るだけで、攻撃性はいっさい感じさせなかった。

「この子を出そうか」とPerroの責任者と顔を見合わせた。
そのとき、3つ隣の犬舎で盛大に吠え声をあげているラブのことが小さな痛みとなって心を刺したのである。


▲センターから引きだした当日——まだ混乱から抜けきっていない

じつはその日が、ラブとの2度目のご対面だった。
とっくに期限がすぎているのそのラブには、どこからもオファーは入っていなかった。
「お前、まだここにいるのか。そのご面相と吠え声じゃなぁ……」

10日ほど前、初対面のソイツは、犬舎の分厚いガラス越しに、通路にいる私たちに向かって恐るべき形相で吠えかかってきた。すさまじい吠え声だった。口からはヨダレがはじけ飛んでいた。
威勢のいい兄ちゃん。ま、元気でな――と、犬舎の前を素通りした覚えがある。
吠えかかってくる大型犬の♂を好んで引き出そうと考える人間はあまり多くない。

そしてこの日もまた、ラブはすごい剣幕で吠えかかってきた。
しかし職員さんは、コイツに敵意や攻撃性はいっさいないのだと話した。
エライのがきたと当初は思ったが、よく知れば全然いい子だった、犬舎に入ってみますか……と。

職員さんの言葉は正しかった。
2009年07月01日(水) No.14