俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

物理量




連れ帰ったテツは、予想に反して驚くほどいい子だった。
その日、家にあげた瞬間から、家庭犬として家族にとけこんで暮らせる子だった。
こんなにも愚かに見えて、人の暮らしぶりをよく理解し、まるで隅々まで知っているように振る舞うのには驚かされる。

たとえば、私と家内がだらしなくテレビを観はじめると、「こりゃダメだ……」という感じでさっさと床に伏せてしまう。光る箱の前に座った人間が、何も期待できない無為無能な存在に変身することをコイツは知っているのだ。
あるいは、私がパソコンに向かうと、これほど分離不安が強いにもかかわらず、そっと他の場所に行って寝ていたりする。お邪魔でしょうから、と。

それに、テツが頭を上げてこちらを見るときの目!
願いと寛容と信頼と愛情と甘えが入りまじったようなその色合いに、私の全存在がとろけ落ちそうになる。
間近で接してはじめて知るのだが、その目はまた、じつに表情豊かである。

私はたちまちこの子が好きになった。

もちろん、人間の側から見たとき、問題点はいくつかある。
ほとんどは是正できるものだと思う。
決して変えることのできない最大の問題は、テツに責任のない、たったひとつの点にかかっている。
物理量である。
2009年07月16日(木) No.20