俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

なんなんだよ、お前



爺さんのように背中を少し丸めて座って窓の外を飽かず眺めている

黒柴がやってくることになって、これまでの柴体験と前の預かりボラさんの日記からある程度のあたりをつけていた。
たぶんこんな子だろう、と。

以前に属していた別の譲渡団体で長期間、柴の男の子を預かったことがある。
文太という名前のその柴と暮らした日々を、私は生涯忘れないだろう。あれは素晴らしい経験だった。
それ以後も、せいぜい2、3週間程度の短い期間ではあるが、何頭かの柴の男女がわが家を通過していっている。

そういう過去の経験の総和から、おおよそのイメージを頭に描きつつ、黒柴男子を迎えたのである。
事前の予想がまったく見当外れだったわけではない。
だがカンペイは、思いがけないところが、なにかいろいろな点で違ったのである。
「なんなんだよ、お前」と声をかけたくなったことも一度や二度ではない。

私が柴の三大美質と考えているのは、1) 静か 2) 律義 3) 潔癖 の3点である。

「静か」というのは、吠えない、興奮してワレを忘れた大騒ぎをしない、うざったるくストーキングしないといったあたりのこと。
「律義」というのは、飼い主(とその家族)に対する忠義。一徹さ、習慣・ルールの厳守、ガマン強さといったあたりのことも含んでいる。
ただし、これは頑迷、外に向かっての狭量などというネガティブな方向にも転びがちだ。
「潔癖」というのは、主として排泄に対する意識をさしている。
およそ柴が、自分の暮らす家の中で粗相するなどということは考えられない。そんな失態は、彼ら彼女らにとっては切腹に値する恥辱であろう。
柴、とくに柴男子は、誇り高い生き物なのだ。


なんに対しても外向的な男なのだ

カンペイはどうか。
「静か」か?
文句なく静かである。
たとえば今日1日を振り返ってみて、カンペイが声をあげたことはたしかに一度もなかったと気づく。そう考えると昨日も、一昨日も。
この前カンペイが声を出したのはいつだったか……。

「律義」か?
もう少しふわふわした生き物のように感じる。
律義を不器用という言葉に置き換えてしまえば、これ以上ないほど不器用である。
一方で、あらゆる人に対して洋犬のように外向的にフレンドリーだし、他の犬にもサイズ・犬種を問わずおそろしく友好的。内と外の意識が、一般的な柴と比べて決定的に希薄なような気がする。
誇り高くは、とくにないし。

「潔癖」か?
まったく違う。お前は柴か、というぐらい違う。
しかしすでにそれはほとんど過去形で語られるべき話であるが、次には、そのあたりのことを書いてみたい。
2012年07月07日(土) No.136

三年寝太郎




ぬるま湯に全身濡れて暮らすような高温多湿――犬がもっとも苦手とする時季である。
カンペイはわずかでも快適な場所を求めて、ソファ、座イス、床、窓のそば、クレート内……とノマド的に移動しながら1日のほとんどを寝て暮らしている。

意外なことに、カンペイは人生の大半を寝る男であった。
朝6時前後に散歩に出て朝食をとると爆睡モードに入り、昼までのほぼ9割の時間を寝ている。
相撲部屋同然の日課である。
カンペイは声を出さないから、朝食後から夕方までのあいだ、ほとんど存在を主張しない、ときどき動く沈黙の置き物としてこの家に存在している。

カンペイが寝る男に突如変身したのはわが家にやってきて1か月が経過したころだった。
多くの犬は新しい家にやってきてしばらくは本当の安眠ができない。
もちろん初日から仰向けに爆睡する大物もいるが、「ここは安心みたいだな」とホッと緊張をゆるめて爆睡モードに入れるようになるまで、ほとんどの子は数日かかる。ささくれだつように神経質な子だと、2週間程度かかることもある。

しかし、さして神経過敏にも見えないカンペイは、1か月もの日時を要した。これはおそらくわが家での最長不倒距離として記録されるだろう。

環境の変化に適応するのがこれほど苦手な男なのである。

2012年07月07日(土) No.135