俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
変化
ドヒャ〜ッ!
「たしかに変わったよねえ」
別荘から家に戻った後にカンペイの様子を見て、そしてなぜか次に私の顔をしげしげと見て、家内はもう一度言ったのだった。
では、どういうふうに変わった?
それに答えるのは、私のありったけの言語能力を総動員しても、ものすごく難しい。
わが家の様子を誰かが外から見ていたとしたら、たぶんカンペイの変化に気づくことはできなかったろう。
それは一見すると微細でほとんど観測不能の、しかし一緒に暮らしている私と家内だけには疑いようもなくわかる変化だった。
カンペイは私の顔をよく見るようになった。しばしば顔を覗きこんで私の表情の変化に注意を払うようになった。
私や家内にそれとなく寄り添うことも増えた。
以前にそういうことをしなかったというわけではない。
しかし同じことをするのでも、そのときのカンペイの、何か言葉で表現しづらいものが変わったのだ。
前より甘えっ子になったという言いかたもできるかもしれないが、決してそれだけではない。
カンペイと私たちのあいだにあった薄布が取り払われた感じとでもいったらいいか。
言っときますけど、これ、楽しく遊んでるんですからね
私が外出すると、ドアの前でずっと待っているようなことも起こった。
家内は「こんなことなら、(外泊など)もっと早くいろいろな経験をさせてあげればよかったね」と話した。
私もそう思った。
このとき(昨年9月時点で)、カンペイがわが家で暮らしはじめてから1年と4か月がたっていた。
1年4か月!
それだけの期間を一緒に暮らした後、犬はまだ大きく変わることができるのだとカンペイが私に教えてくれたのである。
人間だって、年をとるにつれ自分を変えるのがいかに難しいかを痛感するばかりである。
犬という生きものの奥深い能力、成犬の預かりの醍醐味みたいなものを感じずにはいられなかった。(カンペイで犬を代表させてすみません)
ということで、これまでカンペイとはこういうヤツだとさんざん決めつけていた私は間違っていた。
カンペイには深くお詫びしたい。
そのうえであらためてみなさんに申しあげたい。
犬は私たちの想像をこえて可塑的な(=変わることのできる)生きものなのだと。
しかしその変化は私たち人間との相互作用によってのみ生じる。
飼い主がチャンスを与えなければ、犬は変われない。
ウチの犬はこうだと頭から決めつけず、ときには自分の枠、生活の枠からはみ出してでも、犬にさまざまな経験をさせてあげる必要があるのではないだろうか。
もしかしたら、犬の可能性を縛っているのはほかならぬ私たち自身の先入観や思いこみ、あるいは頑固な慣行なのかもしれない。
人が変わらないかぎり犬も変われないのだ。
カンペイの変化はそれまでのわが家の1年4か月の暮らしでわずかずつカンペイのなかで準備されてきたものだったろうと思う。
今回の外泊で変わったというより、とっくに準備完了スタンバイしてあったものが――そのことに私はまったく気づいていなかったのだが――ひとつのキッカケで作動したに違いない。
私がしたことは、それと知らずにダイヤルのひと目盛りを回したことによって水門を開き、いっぱいに満ちていたカンペイの変化をどっと水路に導き入れたにすぎまい。
この外泊以降、お互いの脳ミソ間の通用口が開通したように、カンペイとの生活のいろいろなところが変わっていった。
キリッ!
2014年01月27日(月)
No.165
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