俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

突貫小娘の来襲




こんなんがやってきた。(370c=生後3か月のジャック・ラッセル)
大暴れしたあと、こうしてバッタリと倒れる。

本当に眠くなると、体がゴムのようにグニャグニャになって、やる気はあってももうどうにも起きられないというふうになる。
眠い体は重力に抗うこともできず、傾斜があるところから頭を下にして寝たままごろごろと滑り落ちたりする。
かわいいったらないのである。

とはいえ、この子は女の子であるわけだが、ジャック・ラッセル魂をその小さな体にしっかりと充填してあり、起きて活動しているときにはカンペイにとって天災そのものであった。

ご盛名(とくに男の子の)はかねがね伝え聞いていたが、これまでジャック・ラッセル・テリアという犬種に深く接した経験は私にはない。
この子と2泊3日という短時日を一緒に過ごして――短時日だからこそそう思うのかもしれないが――素晴らしい資質を持った犬種だなと唸らされた。

なによりいいのは「やる気」である。
まるで太い樹の幹からまっすぐ突きだした短く勁(つよ)い枝だ。
この子には迷ったり不要に恐れたり、神経質だったり、ひねたり、すぐにへこたれたりするところがない。
生まれたときから自分の天命をわきまえているように一直線に行動する。さりげないほどに生得的な果敢さがある。
真っ黒に日に焼けた少女が桟橋の突端からさっと海に飛び込む姿のようで、見ていてじつにすがすがしく、凛として気持ちがよい。
くたびれはてたオジサンまでが励まされる。

そして、その気力は体のサイズと反比例して大きく逞しい。
近所の公園でわらわらと結集した大型犬のあいだに分け入って、この子は少しも臆するところがなかった。
気持ちが強いからこそ、どんな相手にも友好的に振る舞うことができる。
しかし、ほとんど誰にも敗けない。


生後4か月のハスキー君とタメ。飼い主さんにとって2頭目のハスキーだが「こんなに大変だったかなぁ」とおっしゃる


生後7か月のラブ君とガンを飛ばしあう。この後追撃戦に移行


追撃戦。さすがにラブの体格には圧倒された

ラブの男の子に猛スピードでぶつかられて仰向けに吹っ飛ばされ、一瞬「なに、この野蛮すぎる生きものは」と少しだけ逃げ腰になることもあるが、その気持ちは通常、最大3秒くらいでリセットされ、次の瞬間には元どおりになっている。
しばしば見せるこのリセットには感心させられた。

ただ、その不屈のリセットが一緒に暮らすものにとって幸せな方向に作用するかどうかはまた別の話である。
とくにカンペイにとっては――
2014年07月21日(月) No.175

偉大なる柴


最近、柴の偉業が連続した。
ご存じかもしれないが、クマの襲撃(自己防衛的行動ともいえる)にあった飼い主を身を挺して守った犬の美談がたてつづけに報じられた。
その2頭ともが柴であった。


左・ショコラ、右・めごの雄姿(新聞から転載)

新聞報道から事件を簡単にまとめると――
・めごちゃんの武勇伝
6月21日夕刻、秋田県大館市の河川敷。
80歳の曽祖父が軽トラックで5歳の男の子と6歳の柴「めご」を連れて遊びにやってきた。
ひ孫は助手席に、柴のめごは軽トラの荷台にリードを結ばれて。
男の子は河川敷の土手に到着するとひとりで下りていった。めごがその後を追う。(5歳の子と犬だけ先に行かせちゃうってどうよ、といったことはこの際関係ない)
河川敷にはクマがいた。
めごの「ふだんは聞いたことのないような」ただならぬ吠え声がした直後、男の子が泣きながら駆け戻ってきた。
曽祖父は逃げていくクマを目撃した。
男の子の服は破れ、背中やお尻などにひっかき傷があった。
めごは日ごろはおとなしくて、むしろ臆病なところのある犬だったという。
柴のめごがクマを追い払ったのだ。

・ショコラちゃんの武勇伝
6月28日午前9時すぎ、金沢市の山道を近くに住む63歳と59歳の夫婦、そして黒柴のショコラ(10歳程度・年齢不詳)が散歩していた。
樹の上に2頭の子グマがいるのを見つけた夫が、突然、背後から親グマと思われるクマに襲われた。
うつぶせに倒れ込んだ夫にクマが覆いかぶさった。
そのとき、ショコラが背後から吠えながらクマに跳びかかったのである。
「親子クマ」は山の中に逃げた。
夫は頭に縫うケガを負っていた。ショコラがいなければ最悪の事態も考えられた。
そのショコラは、老犬の域にあり、ふだんはおとなしく、知らない人が家にやってきても吠えない「番犬失格」の犬であった。

私は柴犬の預かり主として、これらの記事を読んで人知れず胸が高鳴った。
家内まで呼んで、柴の武勇を言い聞かせた。
いつもはなにも能が無いふうに見えて、いざとなれば身を挺して家族を守るのが柴。
カンペイとか梅吉だって、やるときゃやるのよ、と。


ふだんはこういうヤツですが

しかしもう1件の関連記事を読んで、あることに気づいた。
2010年10月に富山県魚津市でツキノワグマ2頭に遭遇した男性飼い主を10歳の犬が助けた。
2頭のクマに突撃して撃退したこの子は、ハスキーと小型犬のMIXだった。

つまりこれらの忠犬・義勇犬事件に共通するキーワードは「柴」ではない。
「雌」だった、3頭とも。
付け加えると、米国カリフォルニア州で近所の犬に襲われた4歳の男児を体当たりで助けた猫の「タラ」も雌だ。

つ、つまり、「命がけで家族を守るのは男の役目。それがあらゆる動物のルール」なんてのはウソっぱちなのである。
いざというとき、自分の身を投げだして「家族」を守る犠牲的家族愛(と呼んで差し支えなかろう)と勇気は、むしろ女子に優位に備わった徳目と見るべきなのかもしれない。

そんなわけで、柴だからといって、カンペイや梅吉に過度な期待は禁物なのである。


後ろに注射器持った人いるけど、看護師さんにぎゅっと羽交い締めされてオレ幸せ
2014年07月01日(火) No.174