俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

ラキ男のこと(1)





ここでラキ男(ラッキー)について書きたい。
ラキ男と4日ほど暮らして、私はこの小心でひたむきな男が不憫(ふびん)でならなくなってしまった。

ラキ男の「前科」についてはよく聞いて知っている。
だからこれまでのどの犬に対するよりも増して、私は注意深くこのコーギーと接しているつもりだ。一緒にいるときには、自分に可能なかぎりその一挙手一投足を観察しようとしている。
そこで私が見たものは?
懸命に、あまりにも懸命にすがりつこうとしている小っぽけな魂だった。
すがりつこうとしている先にあるのは私ではない。そう見えるときもあるが違うだろう。

「生活」だと思う。
自分の絶対の居場所が確保され、やすらいで、すっかり武装解除ができ、信頼できる人間の傍らに守られて(自分も守り)、果たすべき役割を与えられ、そこに全力を投入し、ホメられ、信頼され、愛され、昨日と同じ明日が保証された――ただの生活、である。

もう10年間もラキ男はそれを求め続けてきて得られずにいるのだ。
そして彼の残りの時間はどんどん少なくなってきている。

ここがそんなことをやるべき場所ではないと承知で(前日ああ書いたのに)、私は彼の来歴にちょっとだけ触れてみたいと思う。

2013年11月30日(土) No.156

こんなん来ました




このところカンペイの表情がすぐれない。
思いがけぬ来訪客がやってきた。
10歳のコーギー男子。Perro募集番号281の子がわが家にいる。
「ラッキー」という名前がついているが、私はときどき「ラキヲ(ラキ男)」と呼んでいる。
Perroのスタッフのあいだで、この子はおそらくもっとも知名度の高い1頭なのではないかと思う。
咬むからだ。
凶状持ちである。
過去の預かり日記を読むと「前科10犯」などという言葉が出てくる。預かりボラのご苦労が深くしのばれるわけである。
じつは私がこの子を飼育困難家庭から引き受けた経緯と責任があるのだが、預かり日記の本題から外れるのでここでは書かない。
ともかく、そのラキ男がいまわが家にいて、カンペイと暮らしているのである。



お前も気の小っちゃい男のひとりだな


柴男子とコーギー男子を一緒にしたら、悪い化学変化が生じると考えるのがふつうだろう。
高校の化学実験室で1人の好奇心溢れる生徒が「この薬品をビーカーにちょっと足してみたらどうなるのかな」とか軽く思いついた結果、猛烈な白煙と異臭が生じて学校騒然、消防車までやってきて本人呆然――となるアレである。
柴とコーギーは同質同傾向の「天敵」と見なされることが多い。

家にあげるまでは、正直、懸念があった。

カンペイはご存じのとおりの平和主義者であり断然たる弱ちんだが、ラキ男については不安が拭えなかった。
何かの拍子にカンペイの振る舞いがラキ男の逆鱗にふれて流血沙汰になったりはしまいか、と。

しかし事実はまったく違った。この2頭は表向きなんの摩擦も起こさない。
驚いたことに、むしろカンペイのほうがラキ男に対して尊大に振る舞った。
おもしろがって追いかけ回したりすることもある。
「お前が相手しているこのお方をどなた様と心得ているんだ」と私はハラハラしながらその様子を見ていたのだが、ラキ男はカンペイの無礼に対してスルーするばかりでなく、どちらかというと弱腰にすら思えるくらいだった。
しかし同時にここが犬の関係のおもしろさなのだが、ラキ男には遠慮もなかった。カンペイの神聖なテリトリーにもずかずか踏み込んでしまう。
「聖域侵犯」に対してカンペイははじめのうち「教育的指導」のようなものを何回かおこなっていたが、そのうち諦めてしまったようだ。

そうして、カンペイの表情がしだいに曇ってきた――。

2013年11月29日(金) No.155