俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

シッコのわけ(1)




日記を読んだ家内が「下痢のことばっかり。これじゃ、お申し込みなんかこないでしょ」と言った。
当然だろうな。
しかし、どうせもう書いちゃったのだから、あと少し書く。
しばらく一緒に暮らしているうちに、あのときのカンペイの状態について、「ああ、そういうわけだったのか」と気づくようなことが何度もあった。
それを書いておきたい。

下痢の理由だけは考えるまでもあるまい。
ストレスがお腹にきたのである。
カンペイは預かり宅を移動してきたばかりだった。
この不器用そのものの男にとって、新しい環境に適応しようとしてすでにアップアップのところへ、サクの奇襲が重なり、オーバーフローしてしまったに違いない。
カンペイという容器に盛れる量はもともと少ない。
また、下痢によって預かり宅の人間(私だが)がジタバタしだしたのも、ますますカンペイをパニクらせた一因になったかもしれない。


ここから見張ってんだよ。大事な仕事だよ

次に大(健全時)小の排泄の混乱だが――
排泄がデタラメに見えたのは、じつはいくつかの違った要因による別々の行動であったのではないかと私は考えている。
ひとつは、マーキングだった。
マーキングというと、あちこちに少量ずつせわしなくまき散らすイメージがあるが、この場合はむしろドーンと少数回の大量放出だった。
重々しく存在証明書を発行たてまつるという感じである。
前に書いたが、ごろ寝している私の目の前50センチのホットカーペット上に大量排泄したのも、その後に玄関そばにやったのも――そのときは気づかなかったのだが――この存在証明だったろう。
「ここ、オレんちゾ」と。

大型犬は女の子も含めて、この手の大量排泄行動をとることがある。
他の犬がショートステイにくると、これをやりがちなのだ。
テツもボニーもそうだった。しかもホットカーペット上のほとんど同じ場所でやった。歴代の多くの犬も。

みんなが高い頻度で排泄するそのあたりの場所は、じつはわが家にやってくる犬たちがもっとも好む場所になっている。
2方向に窓がある行き止まりで、壁(実際にはテレビ台やら座卓やら本棚だが)を背にしてここから周囲を睥睨できる要衝だからだろうか。
誰も頼んでいないのに日がなここから外を監視し、猫などが通りがかると興奮して窓に飛びかかったりする大迷惑な任務である。

で、数日前にホットカーペットをはがしたら、その場所の床(桜材フローリング)にみごとなホットスポットができていて、家内と手を取りあって泣いたことである。


ホットスポットの最新画像。

※おしっこのせいで床が変色したのではなく、消毒アルコール、お湯、消臭殺菌剤などフル動員するからそのせいか、あるいはそれにまじってホットカーペットに含まれていた化学物質が溶け出した可能性もある。(もちろん、電熱する部分に薬剤やお湯がかからないようにしてます)
例年、夏にはホットカーペットを外すのだが、昨年の夏はボニーがいたこと「も」あって、そのままにしたのが運の尽きだった。怠惰は身を滅ぼすのだ。学校で習ったとおりだった。
ホットカーペット自体は人(たぶん私以外)と犬の臭いがしみ付いて長くても2年が限度。たびたび買い替える消耗材となっている。
2012年07月23日(月) No.143

ゲリーさんの来襲と撤退




正直いって、カンペイの下痢がはじまって以降のことはあまり思いだせない。
事態は私の希望的観測をつねに裏切り、チェーンリアクション的に急坂を転げ落ちるように悪くなっていった。
私は後から必死に追いかけ、もう追いつくのに精いっぱいだった。立ち止まって考えるヒマさえなかった。

下痢の始末はたいへんだったが、幸いなことに、下痢についてはカンペイはかなりの確率でシートに排泄してくれた。全部ではない。
回数・頻度がすごかった。
いま庭で排泄したからしばらく安心かなと思うと、もう次のが出ていた。いっときも心が休まらないのである。

私は「クレート作戦」をとることにした。
じつに簡単なプランである。
カンペイをクレートに入れて、一定時間で庭に出す。
カンペイはいやしくも柴のハシクレだから、自分の個室ともいうべきクレート内で排泄するのにはさすがに強い心理的な障壁があるはずだ。
だから、おそらく、おそらくだが、クレート内ではかなりの程度ガマンし、庭に出してあげたところで排泄するのではないか。いや、排泄してくれぇ。

これはわれながらいいプランに思えた。
私はカンペイ入りの大型クレートを横に置いて、ソファで寝ころびながら本を読んでいた。
気持ちよく頁を繰っていると、ピチャピチャと水漏れのような、猫が水を飲んでいるような音が聞こえてきた。
本を放り投げて、ぱっと飛び起きる。
クレートの中を覗きこんで、わが目を疑った。敷きつめておいた新聞紙の上に載った液状の排泄物をカンペイが熱心に舐めていた。
「うぉーっ」
私は言葉にならない声をあげながら、カンペイをクレートから引きだし、そのまま庭に連れだした。
このときの私の叫び声、鬼の形相、力いっぱいカンペイをクレートから引きだした暴力性などを見たカンペイは、しっかりとこれに学び、以後は極力私の目を避けて排泄するようになったのである。


サクが天使に見えたりしたのだから、私もよほどまいっていたのだろう

クレート作戦は早々に放棄された。その後のことは当時のmixiつぶやきから。というより、このあたりのことはいまはほとんど覚えていないのだ。

<下痢頻度増し、もはやクレートに入れてはウンコまみれ必定という判断から、昨晩オレと一緒にソファで寝るが、案の定、午前零時、午前2時、午前3時半とソファを出て排泄に向かう>

<そのたびに、オレは静かに足音を忍ばせて尾行し、物陰から様子を窺い(オレの存在に気づくと排泄をやめてしまうことがある)、排泄が終わった気配を察するや現場に立ち入り、素早く後片づけした>
(注)素早く後片づけしないと舐めるおそれがあった。

<3時間おきに赤ちゃんに授乳するようなものであるが、同じ液体とはいえ、入ったモノが出るときには、だいぶ印象が変わるのであるな>

<このままだとオレの体が心配なので、とにかく下痢を止めるため、今朝、動物病院へ出かけて、薬を山ほどいただいてきた。脱水も見られたので、生理的食塩水の皮下点滴も受けた>

ここで下痢は止まった。
私のゲリーウォーズは終了した。この後、2か月がたつが、カンペイは1度もお腹を下していない。


あのときは、すまんことでした。でへ
2012年07月22日(日) No.142

崩壊への道




たいせつなことを書き忘れていた。
カンペイは4月28日の午後にわが家にやってきた。
そのたった4日後にサクが出現したのだった。

サクが登場するまで、カンペイは大を2日に1回のペースでしか排泄しなかった。
繊細な犬のなかに、環境が変わると大が止まる子がたまにいる。
以前、センターからわが家にやってきたゴールデンの女の子は3日も4日もウンコしなかった。
うちの長男も中学生当時、3泊程度の修学旅行中じつに1度も排泄せずに帰宅した。
家に帰り着くやいなや、たちまち排出が再開される仕掛けになっている。
息子がその後あっさりといつものペースに戻ったように、どんなに神経質な犬でも、いったん緊張が解けて新しい環境に慣れれば、あとは自分なりの排便リズムを取り戻すのである。



おまいら、たいがいにしろよな

本当なら、カンペイは1週間程度の時間をかけてゆるゆると、現在見られるような安定的な排泄習慣に移行するはずだったろう。
私は楽観的にそう見ていたし、たぶんそうなったはずだ。
(多くの犬は飼育環境が変わっても、すんなりと適応していっているように見える。だが、実際には彼ら彼女らのほとんどは緊張、おそれ、ストレスを感じながら、新しい環境に自らを適応させようと懸命なのである。私たちはそれをときどき忘れることがある)
カンペイはもともと不器用で環境の変化への適応が超下手クソな男である。
そこに突貫小娘サクが出現した――。

楽しそうにサクと遊んでいるように見えたカンペイのなかで、ギリギリ持ちこたえてきた何かが飽和し決壊したのだろう。
「オレの暮らし、毎日がビッグサンダーマウンテンみたい。これからどうなっちゃうのか不安でいっぱい。もうダメダメ。ウンコチッコいっぱいいっぱい」とかラップふうに。
まずカンペイの小の排出コントローラーが、つづいて大のコントローラーが混乱におちいった。
具体的には、わが家の床に小(液体)や大(水分の多い固体)が無作為に落ちているといった事態である。

次にやってきたのは悪夢のような下痢だった……。


オレだって、ムリが体にきちゃうことあんのよ
2012年07月21日(土) No.141

チッコウンコ壊滅へ



夕暮れに向かう窓の外を眺める2頭

サクとカンペイの庭遊びは、しかし、そう長時間つづけさせるわけにいかなかった。
2頭は「ウガウガウゲゲガオ〜」とケモノのようなおそろしい唸り声をあげ(事実ケモノなのだが)、マズルに皺を寄せて歯を剥き、背中の毛を逆立てながらぶつかりあう。
これを犬同士のほほえましい遊びだと思うのは、半径100メートルの人間でおそらく私だけだろう。
その大音声(だいおんじょう)の迫力たるや、私の近所での名声を台なしにしてしまうに十分である。
ワンセッション20〜30分ぐらいが限度だった。
で、家に入れると、今度は室内でスタンディングスタイルの戦いを開始するアホバカ2頭を、ときどきは隔離しなければならなかった。
サクをクレートに、カンペイを別室に押しこめて、一時的に休ませる。
そうして、また庭で遊ばせた。

サクは喜々として遊んだ。
足軽以上グレゴリー・ペック未満の男子2名を従えた姫のローマの休日状態である。見るもの聞くもの触れるものがことごとく新鮮で、楽しくてならないのだ。




サク滞在初日は、まずこの2頭をぐうの音もでないほど疲れさせてやろうと私は目論んだが、実際に疲れはてたのは私だった。
サクは少しも疲れたように見えなかった。
サクが動きつづける限りカンペイは動きつづける。サクの動力が停止するまでカンペイと私に安息は訪れない仕組みなのである。

ようやくサクが止まったのは、記憶が定かではないが、その日の夕食が終わってしばらくしてのことだったと思う。

この日のmixiつぶやきに私はこう書いている。
<saku待望のエンジン停止。黒柴→オレと順次エンジンを停止して、マクラを並べて爆睡1時間半>

爆睡から目覚めると、カンペイのシッコが壊滅的なことになりはじめていた。
その日はまだ兆しのようなものだったが、翌日には私の目の前でシッコの秩序はガタガタに崩壊した。
これまで室内ではほとんどシート(とその類似物)周辺に排泄していたが、いまや「シートにも」排泄するという状態。

これ以降、リビング、廊下の奥、玄関脇、洗面所と、カンペイはもうほとんどところかまわずという感じである。
いや、回数・頻度はさほどではないのだ。
ただ、なんといっても1回の量が半端ではない。
水をがぶ飲みしていたのが利いたわけである。
膀胱フル積載の中型犬が排泄する量たるやもう、ティッシュ箱片手に私が泣きじゃくるほどのレベルである。

ひとつには、このとき私は思い違いしていたのだ。庭でヘトヘトになるほど長時間遊んだからといって、カンペイは十分に排泄していたわけではなかった。
サクが庭のあちこちで自在にシッコする姿に惑わされて見失っていたが、おそらくカンペイはほんのわずかの量しか庭ではシッコしていなかったのだろう。
前述したように、カンペイは庭ではめったに排泄しない。それを忘れていた。おまけに水をがぶ飲みである。

そして、それまで問題なかった大のほうも、突然崩壊した……。


2012年07月16日(月) No.140

サク襲来




サクはPerroの保護犬(募集番号288)である。
現在まだ生後10か月ほどのMIXの女の子。生まれた直後に動物病院の敷地に置き去りにされていた4頭の兄弟姉妹の1頭だ。
4頭のうちの3頭(♂1、♀2)を私たちの会が引きとった。

この3頭には、まっすぐに明るく、体育会的に活発な遊び好きで、人なつこく、他の犬にフレンドリーで、多少のことにはへこたれず、しかし未知のことには少しだけ神経質――といった共通する気質があるように思う。
そのなかでいちばん小柄な女の子だったサクがわが家を訪れたのは、この5月のことである。
当時のサクはまだ生後8か月だった。
ゴールデンウィークの前後10日間ぐらいの日々をカンペイと暮らした――。

やってきたサクはクレートから出ようとして目の前のカンペイに気づき、うなり声をあげて後ろに飛び退いた。
しかし、まばたき3回ぐらいの時間でサクはこの生きものが「まったく取るに足らない存在」であることを直感したらしい。
一瞬にして態度が変わった。
以後は、悠然と、ため口どころか、やや上から目線の振る舞いとなったのである。
カンペイは、サクにとっての遊び相手(ご学友)と侍従長(爺や)とボディーガード(子分)を合わせて5で割ったような位置づけとなった。


一見するとカンペイが鬼の形相で威嚇しているようだが、もちろん遊びの一環。軽く受け流しているサクの余裕の表情に注目

たちまちサク主導で猛然たる遊びが開始された。
おもしろかった。2頭を庭に出して私は飽かず眺めていた。
カンペイは、ときどきは遊びの主導権を握ることもあったが、ほとんどの時間、右に左にいっときも動きを停止しないサクという小娘の嵐のようなペースに引きこまれ翻弄されている。

世の女性一般と同様、サクは男(カンペイ)に追いかけさせるよう仕向けるのが好きだ。
逃げるサク、追うカンペイ。
地形や障害物を考えられないくらいじょうずに利用して、狭い場所で縦横無尽の鬼ごっこを展開する。
とくにサクが好むのは、古井戸の周囲でのドッグファイト(ぐるぐる回って相手の背後をとる=巴戦)である。
前述したように逃げるほうをより好む。
何度も何度も古井戸のまわりを回り、逃げ、追いかけさせ、かと思うと別の場所に走っていって(人間の目にはみえみえの)待ち伏せ攻撃をしかける。
追いかけるカンペイをサクが待ち伏せ、まるで事前のシナリオがあるかのような役割交代がおこなわれる。
今度はカンペイをサクが追う。
(じつはこの遊び方は犬の遊びの「定型」で、誰に教わったわけでもないのに多くの犬が同じようにおこなう)


ドッグファイト。逃げるサクを追うカンペイ。
右手前の古井戸を中心に2頭で円を描いて走る。写真の印象より実際には狭いスペースだ


私はこういう光景を見ているのが大好きだ。
犬たちが創意工夫して遊ぶ姿はすばらしい。
疲れると、2頭はボールに入った水をガブガブ飲む。
カンペイはたいてい1歩さがってサクに先を譲る。

この後に私を悩ます問題となったのは、こうして大量に犬の体内に取りこまれた水の行方であったが、むろんこのときはほほえましい光景としか感じなかった。



2012年07月13日(金) No.139

一点の雲




カンペイが吠えた。
ワキャォ〜ンと甲高い悲鳴のように。
怖い夢を見たのか、眠ったまま声だけあげている。
つづいてキャ、キャ、キャ〜〜〜ンと怯えた声が長く尾をひいた。体をガタガタと小さく痙攣させている。
そこでハッと目覚めたカンペイは、首を上げて周囲をビクビク見回してから、横でごろ寝していた私のところにやってきて体をくっつけてまた寝た。
カンペイはよく怖い夢を見るらしい。何日かに一度は寝ながら声をあげる。私も「恐怖の大王」的な悪役としてその夢に登場しているといいのだが。

さて、前回の日記に「先行きは明るいと思った」と書いたが、そうした楽観的な気分のなかにも、「あれれ……」と不可解に感じたことがじつはいくつかあった。

ひとつは庭での排泄作法。
たいていの犬は「ほら、シッコウンコしなさい」と庭に出してやれば、「待ってましたぁ」とばかりに排泄する。
とくに柴は「拙者は死んでも家の中では出さないのであるぞ」的な無用に誇り高い武家のような種族だから、室内ではギリギリをだいぶ超えてもガマンして庭で排出する。
柴のなかには膀胱炎になるまでシッコをガマンしてしまうヤツさえいる。

で、カンペイだが、庭で排泄しないのである。めったに。
前にも書いたが、「はい、シッコウンコどうぞー」と庭で放しても、ふと見るとカンペイは所在なげに私の横に立っている。
なんだ、シッコたまってないのか、と家に入れると、ほどなくジャーッと大量のシッコを室内放出したりする。
カンペイがシートと考えるものの上で。

「お、お前、そんなにためこんでんなら、なんでさっき外でやらなかったんだよ」と頭に上る血をムリヤリ下げ、心で滂沱の涙を流しながらホメまくるのが飼い主の務めである。カンペイはシートの上でやってる(つもり)なのだから。



もうひとつ不可解だったのは、謎の大量放出実演である。
わが家にやってきた翌日だったか翌々日だったか、寝転がってテレビを観ている私の直前50センチのところでカンペイがジョワジョワジョ〜〜〜とえんえん大量放出を開始した。
1.5畳敷きのホットカーペット(電源は入っていない)の上だった。
さすがにこれをシートと誤認するわけはあるまい。
シッコをするたびにホメてたから、まさか、見せびらかしにきたのか。
すると立て続けに今度は玄関(勝手口)のそばの木の床にも。
この連続排出劇がどんな意味をもっていたのかを私が知るのは、だいぶ先のことであった。

しかし、このときの私はカンペイの排泄にかんしてはおおむね楽観的な気分でいた。
たまの失敗や不可解な例外はあるにせよ、全体としては散歩時と室内シート排泄というそれなりに安定した秩序が見られたからだ。あとは時間が解決するだろう、と。

すべてを木っ端みじんに打ち砕いたのは、サクという女の子の出現だった。
2012年07月11日(水) No.138

お前は天才柴か!





繰り返し申しあげておくが、現在のカンペイは排泄にかんしてほぼ完璧である。
これから書くのは、わが家にきて3週間ほどのあいだにおこったことだ。

やってきたカンペイは、少し落ち着くと、当然のように室内でシッコをした。
事前に家のなかに何か所か、犬が好みそうな場所を選んでシートを敷いておいた。
驚いたことに、カンペイはシートを認識する。
あやうくこの未開の風貌にだまされてしまうところだった。カンペイは文明人だったのだ。
柴は潔癖だから、外での排泄をしつけるのは容易である。反面、柴の生活領域である室内で排泄をしつけるのは、他の犬種より骨が折れることが多い。
当たり前のようにシートを認識するカンペイを見て、私は「お前は柴の天才か」と感動しそうになった。
ただほんの少し惜しかったのは、床にあったタオル、バスマット、洗濯物、クッションなどとトイレシートをカンペイは区別しないのである。
ある日のmixiつぶやきに、私はこう書いている。

<黒柴、家内の洗濯物の上に排尿。家内が「なーにやってんのよ〜」と騒ぐから、「そこに置いとくのも悪い」と言ったら、洗い立てのオレのシャツにもジャーであった>

家内はカンペイに向かって声をあげたわけではない。
とっくにカンペイは現場を離脱していた。
本当のところは「あんたのせいだ」と、すぐ目の前の私にいっているのである。



こうした場合、騒がず叱らずが犬と暮らす基本中の基本。
カンペイはシートでしているつもりなのだから、むしろ「エライ」とホメてあげなければならない。
もちろん私は、自分の洋服にシッコをかけられてホメてさしあげるほどの広い度量はなかった。

タオル、バスマット、洗濯物、クッションなどへの排尿は、朗報と受けとめるべきだし、シート周辺へ正しくシッコを投下することもできたから、全体としてカンペイの先行きは明るいと私は思った。

先を予見できる能力が人間に備わっていなくて本当に幸せだった。
2012年07月09日(月) No.137

なんなんだよ、お前



爺さんのように背中を少し丸めて座って窓の外を飽かず眺めている

黒柴がやってくることになって、これまでの柴体験と前の預かりボラさんの日記からある程度のあたりをつけていた。
たぶんこんな子だろう、と。

以前に属していた別の譲渡団体で長期間、柴の男の子を預かったことがある。
文太という名前のその柴と暮らした日々を、私は生涯忘れないだろう。あれは素晴らしい経験だった。
それ以後も、せいぜい2、3週間程度の短い期間ではあるが、何頭かの柴の男女がわが家を通過していっている。

そういう過去の経験の総和から、おおよそのイメージを頭に描きつつ、黒柴男子を迎えたのである。
事前の予想がまったく見当外れだったわけではない。
だがカンペイは、思いがけないところが、なにかいろいろな点で違ったのである。
「なんなんだよ、お前」と声をかけたくなったことも一度や二度ではない。

私が柴の三大美質と考えているのは、1) 静か 2) 律義 3) 潔癖 の3点である。

「静か」というのは、吠えない、興奮してワレを忘れた大騒ぎをしない、うざったるくストーキングしないといったあたりのこと。
「律義」というのは、飼い主(とその家族)に対する忠義。一徹さ、習慣・ルールの厳守、ガマン強さといったあたりのことも含んでいる。
ただし、これは頑迷、外に向かっての狭量などというネガティブな方向にも転びがちだ。
「潔癖」というのは、主として排泄に対する意識をさしている。
およそ柴が、自分の暮らす家の中で粗相するなどということは考えられない。そんな失態は、彼ら彼女らにとっては切腹に値する恥辱であろう。
柴、とくに柴男子は、誇り高い生き物なのだ。


なんに対しても外向的な男なのだ

カンペイはどうか。
「静か」か?
文句なく静かである。
たとえば今日1日を振り返ってみて、カンペイが声をあげたことはたしかに一度もなかったと気づく。そう考えると昨日も、一昨日も。
この前カンペイが声を出したのはいつだったか……。

「律義」か?
もう少しふわふわした生き物のように感じる。
律義を不器用という言葉に置き換えてしまえば、これ以上ないほど不器用である。
一方で、あらゆる人に対して洋犬のように外向的にフレンドリーだし、他の犬にもサイズ・犬種を問わずおそろしく友好的。内と外の意識が、一般的な柴と比べて決定的に希薄なような気がする。
誇り高くは、とくにないし。

「潔癖」か?
まったく違う。お前は柴か、というぐらい違う。
しかしすでにそれはほとんど過去形で語られるべき話であるが、次には、そのあたりのことを書いてみたい。
2012年07月07日(土) No.136

三年寝太郎




ぬるま湯に全身濡れて暮らすような高温多湿――犬がもっとも苦手とする時季である。
カンペイはわずかでも快適な場所を求めて、ソファ、座イス、床、窓のそば、クレート内……とノマド的に移動しながら1日のほとんどを寝て暮らしている。

意外なことに、カンペイは人生の大半を寝る男であった。
朝6時前後に散歩に出て朝食をとると爆睡モードに入り、昼までのほぼ9割の時間を寝ている。
相撲部屋同然の日課である。
カンペイは声を出さないから、朝食後から夕方までのあいだ、ほとんど存在を主張しない、ときどき動く沈黙の置き物としてこの家に存在している。

カンペイが寝る男に突如変身したのはわが家にやってきて1か月が経過したころだった。
多くの犬は新しい家にやってきてしばらくは本当の安眠ができない。
もちろん初日から仰向けに爆睡する大物もいるが、「ここは安心みたいだな」とホッと緊張をゆるめて爆睡モードに入れるようになるまで、ほとんどの子は数日かかる。ささくれだつように神経質な子だと、2週間程度かかることもある。

しかし、さして神経過敏にも見えないカンペイは、1か月もの日時を要した。これはおそらくわが家での最長不倒距離として記録されるだろう。

環境の変化に適応するのがこれほど苦手な男なのである。

2012年07月07日(土) No.135