俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

サンペイ




少し前の話だが、1月半ば、柴のサンペイ君がわが家に数日滞在した。
Perroスタッフの愛犬で、テツ同様センター出身である。

サンペイは一目でテツのことが嫌いになったらしい。

わが家へのサンペイの到着を知ると、「なんだ、なんだ」とテツは吠えながら全速力で駆け寄った。
「シャー!」
猫のような威嚇音をあげて、全身でテツを拒否するサンペイ。
テツはプレイボウからその場ジャンプという謎の得意技を繰りだすが、これはよけいにサンペイの不興をかっただけだった。
その後も、テツがちょっかいを出そうとするたびにサンペイは激しく拒絶した。

KYなテツも、さすがに自分がまったく好かれていないという事実に気づいたらしい。
「こ、困ったな」という表情で少しだけ距離を置くようになったが、ときどき分を忘れてなれなれしくサンペイに接してはきつく叱られた。

サンペイはテツのことをまるで認めていないようだった。できれば、この騒々しい男には消えてほしいと念じていたのかもしれない。
しかし不思議なことに、わが家でこの2頭はきちっと棲み分けして平和に暮らすことができたのである。


▲長男が不在のときはベッドがサンペイの王国

サンペイは孤高を守り、長男の部屋を根城にしてひっそりと暮らしていたが、(ゴハンやオヤツや散歩など)都合のいいことがあるといつの間にか皆のなかに混じって立っていた。長男の部屋のドアはつねに開けてあった。
テツはサンペイが根城とする長男の部屋にはほとんど立ち入ろうとしなかったが、サンペイがその部屋から出てきても「こいつ、ヘンクツだし、ワケわかんないとこあるけど、オレの仲間」という感じで接していた。

人に対しても犬に対しても一定の距離をおいて自立して振る舞うサンペイに対し、なんに対しても距離を保つのが苦手でからきし自立できないテツ。
対照的な2頭だった。

どちらがいいとはいえない。
どちらが優れていて、どちらが劣っているなどということはもっといえない。
だがひとつだけ。
サンペイは散歩中、マーキングをいっさいしない。
これはテツにない美点である。


▲写真で見ると仲よしだが、実際には少し距離をおいて立つ2頭
2010年02月25日(木) No.68

くわえるテツ




雪が降った。
テツと散歩にでたら、じつに奇妙な行動をする。

だしぬけにプレイボウの姿勢(頭までの上半身を伏せの状態にして、お尻をピンと直立させる)になったかと思うと、雪をちょっとだけ囓ってそのままジャンプする。
そしてまたプレイボウ……と、これが繰り返されるのだ。雪は囓ったり、囓らなかったりする。
なんだ、嬉しいのか。

そして今度は、私の同意も得ずに、リードをくわえて激しく引っぱりっこを始める。
私が思わず前につんのめるほどの力でぐいぐい引く。ときどき小さな唸り声もあげる。
テツは喜びの瞬間に、モノを激しくくわえたくなる衝動が起こるらしい。
まあ、これが奇妙だというなら、人間のガッツポーズだって同じくらい奇妙である。



嬉しいとき、ハイになったとき、テツは手近のモノをくわえようとする。
誰かが帰宅すると千切れんばかりにシッポを振りながら飛んで迎えにいく。戻ってくるときには玄関にあった誰かの靴をくわえている。
ときどきわが家の床には靴が転がっている。
家中にテツの足拭き用のタオルが散乱しているのも同じ理由である。
私が朝起きて寝室から出てくると、テツはその場で気絶するのではないかと思うほど喜び、私に思いきり体をぶつけ、パジャマの袖をくわえて叱られる。
もちろんこれは、ラブという犬種に深く刷りこまれたレトリーヴ(retrieve=獲物回収)の習性からきているのだろう。

この性癖を利用して、家内が朝刊を私に届けさせる役目をテツに任じたことがある。
テツは喜んで朝刊をくわえ、私のところに全速で配達する。
が、困ったことに、2回に1回はそのまま引っぱりっこモードに移行するのだ。
新聞はテツのヨダレでグチャグチャに汚れ、破れる。
新聞配達の仕事はそういう事情で解任された。

ラブとの暮らしが楽しいものになるかどうかは、生活に生じるこうした破調(破綻ではない)を人が喜びと感じられるか否かにかかっていると私は思う。

2010年02月03日(水) No.67