俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
高度成長期
気がついたらユーリの体重が13kgに達していた。
一緒に暮らしていても、「あれ、コイツいつの間にこんな大きくなったんだろ」と驚きを感じるほどの急速な成長ぶりだ。
ひょいと片手で抱えあげていた身体は、そろそろ抱くのが辛くなってきた。
上の写真のユーリを見ると、プロポーションが成犬に近くなっていることがわかる。
すでにコリーの成犬に見られる美しい均衡が感じられるようになってきた。
だから、実物より写真のほうが大きく感じられる。
このところのユーリにどれほどの変化が生じているのか、2枚の写真で比べてみると一目瞭然である。
上の写真は11月25日に撮ったもの。下の写真は、まだ紅葉のはじまっていない11月5日に撮影している。
たった3週間ほどで、プロポーションが大きく変化したことがおわかりいただけると思う。
そうして――私もある日突然気づいたのだが、被毛にも大きな変化があらわれていた。
11月5日撮影の写真では、ユーリの胴体の被毛は全体に赤茶がかっている。
直射日光があたっているからそう見えているのも事実だが、実際にこのころのユーリは、暗色部の全体がチョコレート色がかった綿毛のようなフワフワの被毛で覆われていた。
それが、いつの間にか、肩から背中にかけて、深い艶のある濡れたような黒っぽい被毛に置き換わりだしていた。
その色合いは、鴉羽色と呼ぶほどの漆黒ではないが、やはり黒と形容する以外はない。でありながら、逆光では暗褐色が透けて浮かぶ。
たいそう美しいのである。
下の写真は11月18日に撮影したものだが、背中に黒い帯ができているのがおわかりいただけるだろう。
私は、極上の綿のように柔らかな肌触りがするユーリのにこ毛が大好きだった。
それが失われていくのを強く惜しむ。
しかし、子育ての経験のある人には容易におわかりいただけるだろうが、成長とはそういうものだ。
何かを失いながら、何かを得ていく。
ユーリは幼犬の殻を驚くほど急速に脱ぎ捨てている。
私にはただ、失われていく一瞬一瞬をていねいに愛おしむことしかできない。
2010年11月28日(日)
No.87
運動会
▲運動会場で初対面の女の子と。どちらもお子さまだが、女の子は心のどこかに「アンタのこと守ってあげる」と、
けなげな乙女的真情を宿しているのに、対するユーリはスッカラカンのアッケラカンである。
Perro Dogs Homeの運動会にユーリと参加した。
ユーリは車酔いするので、往復の車中はさぞや地獄だったと思う。
全身ヨダレ小僧に変わりはててクレートから這いだしてきた。
しかしヨダレ1リットルの代償を払っても、やはり行ってよかった。
運動会には100頭以上の犬、そして人数不詳の人間たち(幼老青壮男女)が参加していたので、これはもうユーリにとって絶好の社会経験の場となったのである。
ユーリと会った人の反応から「かわいいー」を差し引いて仕分けすると――
「思ったより小さいんですね」
「思ったより大きいんですね」
の2つになるだろう。
しかし100頭を超える犬たちそれぞれの反応となると、これはもっと複雑精妙である。
ユーリの4分の1ぐらいの大きさしかないチワワ(だったと思う)は、ユーリが近くを通るとかならず激しく吠えながら爆走して向かってきた。
近くまで走り寄ってユーリを十分に驚かすと、それ以上は決して深追いしない。クルッと引き返す。
ユーリが近くを通るたび何度もそれをした。他の犬に対してはそういうことはしないのに。
これは、私にはなかなか楽しい光景だった。
飼い主さんは「ウチの子は本当は弱虫なんですけどね〜」と嘆息していたが、たぶん、弱いからこそ、数少ないもっと弱いヤツを見つけたとき、小躍りして会心の遊びをしかけたのである。
きっとこの子にとって、胸のすくような1日だったに違いない。
▲犬たちはただブラブラしているように見えるが、じつはドラマ満載であった。
ドッグランの広い空間で自由になったとき、草原で羊を追いかけていた遠い本能の記憶が呼びさまされたのだろう、ユーリははじけるように走りだした。
グルグルと大きな円を描いて、嬉々として走る。
すると、その姿を見て、牛を追いかけていた遠い本能の記憶が呼びさまされた子がいた。
コーギーの男の子、ハッピー君である。
いつの間にか、ユーリは影のようにハッピー君の追走を受けていた。
▲ふと見るとコーギーが追走をはじめていた。
振り切ろうとしても、振り切れない。当たり前だ、相手は職業的追走者である。
ユーリは私の近くに逃げてきた。
私がなんらかの後ろ盾となってくれることを期待したのかもしれない。
が、すぐに私がなんの助けにもならないと知って「チッ、クソオヤジが」と走り去っていった。
そして――私はいたく感心したのだが――ユーリは会場に設けられているプレハブ小屋に走りこんだのだった。
その後もラブ系の犬に追いかけられたことがあったが、どの子もプレハブ小屋にユーリが逃げこんだところで、追撃をやめる。
一定の条件が解除された瞬間、ゲーム終了となるわけだ。
私は犬社会のフェアな遊びに感心し、ユーリの機転に感心した。
▲静かに運動会を見学しているお利口さんに見えるが、じつはとっくにエネルギー切れを起こして動けないのである。
運動会場で、参加者のおひとりから「いい子ですねえ。すくすくとこのまま育つといいですね」と言われた。
そう、私の役割は、まったくのところ、そこに尽きる。
2010年11月24日(水)
No.86
わが亡き後に洪水よ来たれ
「なんてヒドイことになっているんだろ……」
永い眠りから醒めた人のように、家内は室内を見まわして呆然と言った。
私も口には出さなかったが、ずっとそう思っていた。
訪ねてきた実家の妹が、ドアを開けるなり大げさに驚いて言った。
「お宅大丈夫? 正月が迎えられるの?」
ユーリがきてからはじまったわが家の荒廃が、このところいっそう加速して、準ゴミ屋敷が姿をあらわしつつある。
▲ゴミの中心に帝王然と座すユーリ。タオルケットは、その上で脱糞するという暴挙以来、すっかりユーリのものとなった
おそらく趣味の幅が広いのだろう、ユーリはじつに多方面に関心をもっている。
ダンボールの破壊と細分化に精をだしていたかと思えば、引きだしの取っ手を囓り、雑誌を食い散らし、ティッシュボックスを分解調査する……浅く広く、しばしも休まず骨惜しみすることなく活動している。
それにまた、このところ身体がメリメリと音を立てているんじゃないかというほどの勢いで成長しているユーリは、昨日まで届かなかったところに届くようになり、日々、新たな方面へと探査の手を伸ばしている。
家族一同深い感銘を覚えたのが、昨日ユーリが開発したばかりの新ワザである。
靴をくわえて自分の「巣」に持ってかえるという涙の出るような芸だ。
ユーリ君に説得はいっさい効かないので、靴という靴はみんな靴箱へと避難し、わが家の勝手口(玄関はない)からはかき消えるように靴がなくなった。
取り残されたのは、私のボロランニングシューズと家内の「もう何されてもいい」スニーカーであった。
もちろんそれらは現在、ユーリ君の巣にある。
じつに困ったことである。
でもね、ユーリが得意げに足どり軽く靴を運んでいく姿があまりにかわいらしいため、私は思わずそれに見惚れ、なんかこれを許してしまうんだな。いや困った。
2010年11月19日(金)
No.85
1か月
ユーリをわが家で預かってから、もうすぐ1か月になる。
その間にあったいろいろな話は回を譲るとして、「じゃあユーリってどんなヤツよ」というあたりを手短に書いてみたい。
私はこの子が大好きだ。
最短距離で書けば、これで終わってしまう。
毎日なにかしら、この子に感心せずにはいられない。
一緒に暮らして、この子のことを好きにならないなんて、まずできっこないのである。
しかしこれでは、私の単なる個人的な感想で終わってしまって、おそらく偏屈オヤジの個人的感想に誰ひとり興味はないだろうから、もう少し客観的な尺度で書いてみることにする。
まず排泄だが、現在はほぼ10割の成功率になった。
小は100%、大は90%を超えている。
マレに惨事もあるが、ワタシ的には「子犬にこれ以上なにをお望みか」のレベルと感じている。
そのうちおよそ8割は外(内訳は庭9・散歩中1)、2割はペットシーツ(とその周辺)でする。
わが家にやってきて3週間でこうなった。
めざましい進歩、と受けとる人がいるかもしれないが、本当のところは、私がユーリになにかを教えたわけではない。
もともと素地のある子なのだろう。
そのあたりは、おいおい書いていこうと思う。
夜はクレートで静かに寝ている。
毎夜7、8時間をそこで過ごす。
8時間を超えないようにしているが、うっかり私が寝坊して9時間近くたってから、慌ててドアを開けると、仰向けになって爆睡していた。大物である。
日中は、2〜4時間を散歩と食事と排泄と庭遊びと私とのプロレスと家事妨害と破壊活動についやした後、1〜3時間クレートでお休みいただくというサイクルを繰り返している(もちろんこのサイクルは日によって伸縮する)。
放っておいても、だいたい船外活動が3時間を超えたあたりで、部屋のどこかでバッタリと倒れている。
▲倒れるユーリ
感心するのは、クレートに入れておくかぎり、この子は排泄のいっさいをガマンすることだ。
このあたりのある意味でのタフネスは、大型犬ならではの特質だと思う。
(小学校低学年までおねしょをしていた私よりも、ずっと上等な生き物だと思う)
であればこそ、夜以外は3時間を超えてクレートに入れないようにし、出たがる気配があれば、できるだけすぐに出してやるようにしている。
一度、4時間を超える留守番があったが、クレートで無事すごしていた。
スワレを室内でも外でもできるようになったし、マテもそこそこできる。
たぶん、この後、フセなどもすらすらとこの子には入っていくだろう。
私はそれ以上のことにはあまり興味がないのだが、とことん教えようと思えば嬉々としてついていく子だと感じている。
散歩中、ユーリはアイコンタクトをじつに頻繁にする。これは私の前に短期間預かったスタッフの置きみやげといっていいだろう。
ごく簡略化していうと、アイコンタクトするたびに盛大にホメ、ごほうびをあげ続けた成果がこれなのである。
私もその志を継いで、ユーリがこちらを見るたびに「いい子ォ!」「エライねぇ!」などと声をあげ、手を差しのべてオヤツをあげる。
ときどきごほうびのオヤツを忘れて散歩に出てしまい、その分、ホメまくるわけだが、その姿は事情を知らない人からはさぞ不気味に見えるだろうという自覚はある。
さて、ユーリがどんなに素晴らしい子かをご理解いただいたところで、心穏やかに次の写真をご覧いただきたい。
ここはゴミ回収車が去った直後のゴミ置き場などではなく、わが家の中心部1丁目1番地である。
▲どんなにゴミ同然に見えようと、ひとつひとつの落下物にはユーリ的意味がある。
青矢印の指したところに透明ビニールシートが見えるような気がするのは錯覚ではない。
なぜ、わが家のメインストリートにビニールシートが敷かれているかの謎については、いずれ書くつもりだ。
2010年11月17日(水)
No.84
名前
▲「お前の名前はユーリになりました」「へ?」
この子がわが家にやってくる前に2週間弱のショートステイをしたスタッフ宅で、「コリ男(こりお)」という名前をいただいていた。
コリーの男の子だからコリ男。
なんというか、じつにポエジーな命名である。
こういう命名法はとくに嫌いではないのだが、人から「まあ、かわいい子。名前はなんというのですか」と聞かれて、「コリ男です」とは、今回はさすがの私でも答えにくい。
新しい名前を考える必要がある。
が、すでに私も家内も「コリ男」で呼び慣れてしまっており、老化によって硬化した脳味噌では急転蛇はなかなか難しいものだと悟った。
たとえば、「ベンジャミン・フランクリン」と命名しても、とっさに名前を呼ぶときには「コリ」か「コリ男」になってしまう。
そこで、コリ男とそう遠くない語感で、子犬らしくずっと夢もチボーもある名前を探したのである。
私はウリ(ウリ坊)を強く推したが、家内から反対された。
「お父さんはね、ブリとかテツとか2文字までじゃないと覚えられないのよ」
娘に向かって、聞こえよがしにそう話すのであった。
▲ミルクちゃんが豪快に遊んでくれた。
以下、廃案となったものを列挙する。
コリン=家内が推すが「コリン・パウエル」という実在の人物のイメージがジャマするので却下。
ウリ(ウリ坊)=私のお気に入りだが、家内の反対で却下。
ウィリー=これに決まりかけた。家内は英国王室のウィリアム王子のファンだし、私は全然ファンではないが、ウリと発音が近接しており「ウリ坊」と呼んでも違和感がないから気に入った。
コリゾー=家内が却下。
ブラッキー=公園で昔コリーを飼っていたという人に提案していただいた。日本語的にはラッキーとブラックがうまく取りこまれていて、一瞬心が動いた。家内は賛成。けど、私が「ブラッキー!」と呼んでいる姿を考えると背中がこそばゆくなる。コリ男と語感が離れすぎているのも私には困難要因となる。なにしろ2文字までしか覚えられないそうだからな。
結局、ユーリになった。造反有理のユーリではない。ロシア名のユーリからとった。
じつはケーブル局で20年ぶりぐらいに「話の話」を観て、作者であるユーリ・ノルシュテインの才能にあらためて感銘を覚え、その勢いで決めてしまった。
ユーリなら、間違えてウリと呼んでも誰もわかりゃしないし。
家内は「ユリちゃんって女の子みたいね」とは言ったものの、それ以上の反対はしなかった。
泥沼の命名ゲームに、うんざりしてたらしい。
しかし、家内も私もいまだ「ウリ(坊)」とか「コリ(男、坊)」と呼んでいるのはなぜだろう。
ふと体重を測ったら、11kgを超えていた……。
▲アダムとイブのように、大事な部分を葉っぱで覆っているところはさすがだ。
2010年11月13日(土)
No.83
コリゾー
気持ちよく晴れた朝、公園の芝生でコリーの子と遊んでいると、めいめいが犬を連れた犬仲間と思われる5、6人のご婦人方が声をかけてきた。
「子犬ですかァ?」
「この子、コリーでしょ。違います?」
私と子犬の記念すべき公園デビューである。
私は非社交的な人格のため、こういうとき、自分に少し無理強いをしなければならないのだが、ご婦人方は鷹揚で犬談義に屈託がなかった。
もちろん私がどんな偏屈オヤジであろうと、この子の社会化のために、いまはできるだけ人や犬と接触する必要がある。たいせつな時期なのだから。
それにもしかしたら、いつの間にか、私の社会化もできてしまうという一挙両得になる可能性もあるではないか。
「わぁー、大きい足して、かわいいー」
「どのくらい大きくなるんですかねえ。楽しみー」
いかにも犬飼いらしい、ざっくりとした温かい言葉で歓待してくれる。
ただし、体をくねらせて遊びたがっているコリーに対して、ご婦人たちが連れていたどの犬も、「チッ、子犬かよ。ウザすぎ」という態度に終始する。
下の写真のゴールデン君はすぐに背中を向け、遠い彼方を見やって瞑想にふけりはじめた。
▲いちおう身元の確認だけだからさ
しばらくして、ご婦人方に、このあたりでコリーを見かけたことがないか尋ねた。
「そういえば、コリゾー君って子がいたわねえ」
皆の笑い声があがった。
コリゾー……?
「コリゾーって名前、一度聞いたら忘れられないのよね」
そうそう、と皆がうなずく。
じゃ、コリゾー君というコリーが近所にいるんですね。
「いいえ、東松山の公園で会ったのよね。あまり面白い名前だから記憶に残って」
ひ、東松山!
それくらいコリーと出会う頻度は少ないのである。
しかしその瞬間、私にひらめくものがあった。
まだ名前の決まっていないこの子に、コリゾー(コリ蔵またはコリ僧)という名前はどうだろう。
一度聞いたら忘れられない名前らしいから、これは名案ではないか。
家に帰りつくやいなや、家内に「コリゾーってどうかな、コイツの名前」と提案した。
「イヤよ、そんな名前」
……。
コリゾー案は瞬時についえた。
▲別の日に、美しいシェルティ2頭と。遠い係累だからといって特別扱いはいっさいしてもらえません。
2010年11月12日(金)
No.82
around the corner
子犬との暮らしは、先の見えないブラインドコーナーが連続しているようなものだ。
コーナーを曲がった先にどんな楽しみが待っているか、どんな大災難が待ち受けているか、飛び込んでみないとわからない。
しかしはじめのうち、コーナーを曲がった先にあったのは、たいていコイツの排泄物だった。私と家内は、じつにしばしば、小水を踏むことになった。
一時は、私のふだん履きの靴下が払底したことがあった。
踏むこと自体は一瞬の不快感を感じるだけで、どうってことない。
厄介なのは、靴下をはいていると、小水を踏んでから感じるまでのタイムラグが生じることだった。
「しまった、踏んだか!」と気づいたときにはすでに、何歩か歩いて、汚染を広めている。
しかしまあ、この場合はある程度、汚染の範囲が特定できるからなんとかなる。
足跡が残るし、少し広めにアルコールとティッシュで拭いてまわればいい。
問題は、コリーの子がすでに小水または大を足で踏んで、好き勝手にあたりを歩き回ってしまっている場合だ。
コイツが汚染源を踏んでしまっていることまではわかっても、しかし、いったい、その足でどこをどう歩いて汚染して回ったかまでは、特定のしようがない。
周囲を探索して汚染の痕跡が見つかれば、その一帯を丹念に拭く。
じゃあ、見つからない場合は? 跡が見えなくとも汚染されているんじゃないの。
じつはそれどころか、すでに部屋中、家中を嬉しそうに歩き回ってしまっていることがある。
悪夢のバイオハザード状態だ。
お前は、人として、いったいどうするつもりか?
いや、その場合の解決法は意外と簡単である。
私が口をつぐめばよい。
何も見なかったことにして、すべてを私ひとりの胸にしまって、黙々と急ぎ排泄物をかたづけ、家族には何も告げずに日々の暮らしに戻る。
すると、不思議なことに、八方丸くおさまるのである。
2010年11月08日(月)
No.81
牛飲馬食(ぎゅういんばしょく)
▲将来の美しく気品ある姿態の片鱗がすでにある。
415〜445g。
パピー用ドライフードに記載された、体重10kgで月齢3、4か月の子犬に与えるべき1日あたりの「標準給与量」である。
すさまじい量だ。
大食で知られたラブの成犬より多いのである。
そしてその大半は、あっという間に小さな体を駆けくだり、やや違うものになって体外に排出される。
同時に恐ろしいほど水を飲み、特有の芳香を放つ液体に変えて、小さな蛇口から排出する。
こんなにチビな子犬が、見かけから信じられないほどの排泄物を出す。
まるで24時間操業の高能率な排泄物生産工場のようである。
しかも驚いたことに、このうえまだ他に回る余地がある。
あれだけ動きまわり、破壊活動に従事し、家事万端をジャマし続けることに多くのエネルギーを消費しながら、身体は着実に大きくなっている。
センターから引き出した時点で8kgに満たなかった体重が、私が毎日の排泄物の後かたづけに追われている間にもう10kgを超えている。
生命の驚異と神秘について、「生きもの地球紀行」などという番組(が実際にあるのか知らないが)を観るより、コイツと暮らすほうがよほどタメになるのである。
▲どんだけ食うのか。が、メーカー指定の標準給与量はともかく、実際には1日350〜400g弱ぐらいしか食べない。
2010年11月06日(土)
No.80
課せられたもの
▲カメラを低く構えたら、ウッホホーイと襲いかかる
コリーはわが家にやってくる前に、別のスタッフ宅に2週間弱滞在した。
彼女はセンターからの引きだし担当者で、自分以外のものに対するしつけのエキスパートでもある。
そのスタッフが私にコリーを引き継ぐ際、2つ注文をだした。
・排泄は外だけでなく、トイレシートでもできるようにすること。
・クレートに入って過ごせるようにすること。
どちらも、次に飼う人のためである。
コリーはクレートには問題なく順応しているから、この面ではとくに私のすることはなかった。
せいぜいクレートを居心地のよい快適で安全な場所として認識させてあげることぐらいだ。
で、排泄だが、すでにスタッフの手によって2週間弱のしつけの下地が入っている。
「5割ぐらいの確率で(シートで)できるようになりました」と聞いて、へー、スゴイなぁと思った。
5割できれば、10割できたも同然と手を叩いて大喜びするのが、子犬と暮らし抜くための望ましい思考法である。
わが家では、まず1畳大の特大ペットシーツを敷き、その上に小さなペットシーツを何枚も並べた。
すると、たしかに5割ぐらいの確率である。
ただし、命中率の算定には多少のコツが必要で、シート周辺50cmまでを命中と判定する。
小中学校の当時の先生方にはぜひ学んでほしかった採点哲学だと思う。
50%命中圏が1畳+周囲50cm。
すぐに気づいたのは、1日4回以上の排便+6回以上の排尿で5割成功するのは、1日2回の排便+3回の排尿で全部失敗するのと、わが家的にはほとんど等価(より悪い)という事実であった。
2010年11月05日(金)
No.79
わが目の悪魔
ソファに横になってひと休みしてると、目の前をはずむような足どりでコリーが駆け抜けていった。
なんとかわいい……。
しかし待てよ、口に白いものをくわえているように見えたアレはなんだったのか。
ガバッと私は跳ね起き、コリーが走りこんでいった部屋へ駆けこんだ。
新品のトイレットペーパーだった。いや、正確には、つい数十秒ほど前まで新品だったものだ――。
上の写真を見て、何をお感じになるだろうか。
「まあ、かわいい子」……?
もう少しモノゴトの裏側を見る訓練をなさったほうがよろしい。
コリーの子が片手で押さえているのは、かつて孫の手と呼ばれていたものだ。
その先端は、すだれとフォークの中間のような何かに変わっていて、これで背中をかけば間違いなく血だらけになる。
さて、この場を上から俯瞰したものが次の写真である。
お断りしておくが、コリーの子が身体の下に敷いているのは犬用のタオルケットではない。
さらに、もうひとつ。
きわめて遺憾ながら、この部屋はまだだいぶマシな状況であることも付け加えてくべきだろう。むしろたいへんきれいだといっていい。
コリー君は排泄関係をここではなさらないからだ。
2010年11月03日(水)
No.78
白い紙
馬面(うまづら)のコリーの男の子がわが家にやってきた。
まだ生後3か月ほどの、ほんの子どもである。
先刻は床に小水の池をこしらえ(私が踏んだ)、いま私の足先を尖った乳歯で熱心にかじっているこの子が、4か月前にはどこにも存在しなかったのだと思うと、不思議な気持ちになる。
「人によって汚されていない、真っさらな子という感じですねぇ」
センターから引きだした直後、Perroの引きだし担当スタッフは感に堪えたように言った。
本当にそう思う。
この子を見ていると、人の手による汚れのようなものがいっさいない、真っ白い紙を連想する。
輝くように白く、シワひとつ、手アカひとつついていない。
全面落書きと汚れとシワと破れ目とこぼした酒のシミでいっぱいになった、私のような回収寸前の古紙とは違うのである。
で、真っ白い紙同然の犬と暮らすって、どうなの?
楽しいさ。もちろん素晴らしく楽しい。
ではあっても、それはそれでなかなかエラいことでもある、いうまでもなく。
ときどきエィと両手で丸めてしまいたくなる。
わが家のリビングの床一面は、出現間もないこの生き物のおかげで、ここに住んで以来10数年間見たことのないような大惨状を呈しつつある(公平を期すために言うが、学生時代の私の部屋はもっと大惨状だった)。
▲鳩を追いかけて、追いかけて、追いかけて、えんえんと飽きない。
2010年11月01日(月)
No.77
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