俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

ピカピカであらわれた大吉


※あらかじめお断りしておくが、大吉はすでにわが家にいません。新しい家族と暮らしています。

インターネットの「the dodo」などでは、見るも無残な状態に打ち捨てられた犬たちが再生していく感動的なショートストーリーがいくつも見られる。
そのハッピーエンディングまでの道筋はいつもほぼ同じなのだが、たった数分の映像に、私は毎回感動しないことはない。


「the dodo」のYOUTUBE映像から。
この子がこの後、見違えるように美しく活発な子となり、
里親さんにもらわれて幸せに暮らすようになる……


しかし大吉の物語は決してそのようなものにはならない。
大吉が横浜のセンターからわが家にやってきたときには、すでに最善のピカピカな状態にあったのだから。
センターですべての医療措置を終え、きれいにシャンプーされて、極端にいえば臭いひとつ、抜け毛一本ない状態でセンターからわが家に直送されてきたのだった。
ただし、クレートに敷かれたシートは小水(車で搬送中にお出しになったもの)がびっしょり滲みこんでおり、そのシートは大吉によって上手に丸められていた。


到着初日の大吉。すでにこんなヤツだった

それが、わが家で2か月弱を過ごした後、換毛期のはじまった大吉には浮き毛が目立つようになり、うっすらと脂臭い匂いも漂わせるようになってきた。つまり全身状態についていえば、私の家にいるあいだにむしろ悪くなったといえるかもしれない。

私は古い人間だから――事実、初期高齢者なのだが――こういうものを目の当たりにすると思わず昔語りをしてしまう。
10数年前、センターから犬を引き出して車で運ぶときには、どんなに寒い日でも窓を全開にしなければならないことが少なくなかった。信号などで車が停止すると、臭いという臭いがワーッと押し寄せてきたものだ。
異臭というレベルをはるかに超えた何かを発しつづける物体を家まで運び、まずカーポートのところで洗い、その後、家の風呂で洗った。それでも臭いは完全になくならないことも多かった。被毛は絡みついて一部は固まり、とくにお尻の周りは排泄物の練り物のようなものが被毛と一緒にカチカチに固化していた。

「どうしてこんな子が棄てられたの」と大吉を一目見た家内は言った。
どうもこうもない。私たちがさんざん目にしてきたのは「放棄されるのは犬のせいではなく、(バカで無責任でいい加減で無定見で自らの能力を省みない、まるで私のような)人間のせい」という事実ではないか。


幸い食い意地が張っているのでオヤツに釣られてたちまちスワレを習得

私には想像することしかできないが、大吉は「迷子」になっているところをセンターに保護されたようだから、そのときの状態は私が目にしたものとは相当に違っていたはずだ。
いわゆるシツケの類がひとつも入っていなかったし、おそらくは屋外で係留飼いをされていたのだと思う。

大吉と会ったPerroの代表者は言った。「この子は人との係わりが比較的少なかったのではないか。人から悪い影響をほとんど受けなかった結果、いい意味で白紙の状態にあるように見えますね」
私もそのとおりだと思う。
ごく軽いハンドシャイがあるようだが、人間に対しては固く性善説を信じているように見える。

言っておくが、性格さえよければ、シツケなど入っていなくとも、どんな難があろうと、あとはなんとでもなるのだ。

2020年11月17日(火) No.196