俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

吠えるユーリ(4)




少し話がわき道にそれるが……。
ユーリの優雅にテーパー(先細)のかかった流線型のマズルを見て、「あ、性能よさそ」と思った。
いうまでもない、先代の預かり犬・テツと比べての話である。
ラブの口はいったいどうしてそういうことになっているのか不明だが、口の両脇にヨダレポケット(私が命名)が設けられていて、そこからはてしなくヨダレがたれる。
その粗放な構造の口でテツが水を飲めば、飲んでいるのか打ち水をしているのかわからないくらい、まわりじゅうを水浸しにした。

ユーリの品のよいお口にはヨダレポケットのようなものはないし、先端にいくにしたがってすぼまっているマズルは、両脇からの水漏れが少なそうに見え、水道ホースにも似て、水の汲みあげ性能がよさそうである。
床が水浸しになる惨事とはこれでおさらば、と考えた。

だが、そうではなかった。
違うやりかたで、やはり床は水でビショビショになったのである。

ユーリの長いマズルを、ちょうどストローのようなものだと考えていただきたい。
水を満たしたコップにストローを挿し、その上端を指でふさいだまま持ちあげると、(大気圧のマジックによって)ストローの中の水も一緒についてくる。
が、そこでストローの上穴をふさいだ指を外すと、水はあっけなくストンと落ちる。
恐ろしいことに、ユーリの口で、これと同じことが起きるのである。
ユーリが水を飲み終え、顔を上げると、水が満たされた長いマズルから白糸の滝のように水が流れ落ちる。
実際、どんなことが起こるかは、下の写真をご覧いただきたい。
おかげで、床に点々と水たまりができる。テツより少しマシかなという程度。


▲流れ落ちる水の柱は2、3本になることもある(2011/02/04写真差しかえました)

さて本題。
吠え声の話ばかりがダラダラと続くのでいいかげんウンザリだろうが、私もだ。
もう少しガマンしてお付き合い願いたい。

「相手が自分の思うようにならないとき」、ユーリは吠えることがある。

たとえば、公園などで出会った他の犬と、軽いジャブ合戦のように双方から遊びの仕掛け合いになることがある。どちらもリードにつながれているから、存分の肉体的コンタクトはないままで。
そういうとき、相手が自分の思うように遊んでくれないと(遊びの消化不良=欲求不満をおこすと)、ユーリは吠えることがある。相手の犬に向かって甲高く何度か吠える。「もっと遊べー、オレの流儀で遊べー!」と。
ある日、小型犬相手にそれをやったとき(なぜか大型犬相手にはしない)、私は飼い主さんに向かって「この子は相手が自分の思いどおりに遊んでくれないと吠えるんですよ」とよけいな釈明をした。すると、その女性は、「あーら、××ちゃんは、あなたのオモチャじゃないんですからね」と言った。
背中を冷たい汗がつたい落ちた。

――こういうふうに書いてくると、まるでユーリは吠えてばかりいる騒々しい犬のようだが、実際はむしろ逆だ。
新聞で殺伐とした事件ばかり報じられるからといって、世の中すべてがそういうわけではないのと同じである。
ユーリは大らかな資質をもった静かな犬である。
ほとんどのとき、ユーリは吠え声によって自らの存在を主張しない。
クレートでは、ひっそりと過ごしている。
ユーリが必要と思うかぎられたケースでしか、声をあげない。


▲遊びをせんとや生まれけむ
2011年01月17日(月) No.99