俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

吠えるユーリ(2)




ユーリの吠え方は、私が知るこれまでのどの犬とも微妙に違う気がする。
どこがどう違うのか説明するのはたいそう困難だが、なんというか吠え方が人間的なのだ。
犬が人間的に吠えるって、いったいどういうことよ――などと突っこまれると答えに窮してしまう。しかし私の印象では、ユーリはじつに人間的に吠える。

前々回の日記で、ユーリが吠えるシチュエーションとして、私は次の5つをあげている。

(1)山盛りのドライフードの入ったボールを目の前に、「スワレ」を命じるとき。2、3回吠える。
(2)牛骨の内側に私がチーズを塗っている間ずっと。
(3)私と遊んでいて激しく興奮したとき。
(4)相手が自分の思うようにならないとき。
(5)自分のモノの所有権を主張するとき。

じつはその後、これに1つ付け加えなければならないことを知った。
めったにはないのだが、このところ、ユーリは番犬的な警戒吠えをするようになった。
そのときは、いつものブリキ缶を叩いたような甲高く薄っぺらい吠え声ではなく、いったい誰が吠えているんだろうと思うほど重心の下がった野太い声をあげる。
吠え声を聴いた相手が、声の主の実力を見誤るのは間違いなかろう。素晴らしい抑止効果を発揮するに違いない。
ただし、遺憾ながら、吠え声をあげる先は、いまのところまったくの見当外れである。その誤爆ぶりは滑稽といってもいい。
外の物音はまだしも、高いところに積んであった服がバサッと落ちたとき、ひらひらと落ちていく服の輪郭が異形に映ったのか、その方向に懸命に吠えかかっていた。


▲歴代の犬にしゃぶり尽くされてツルツルになった牛骨。この内側にチーズを塗る。

上の(2)について説明すると、私は牛骨(スープストックをとってから、ユーリ以前の犬がしゃぶり尽くしたもの。すでにツルツルになっている)の骨髄が抜けた穴の内側に、犬用チーズを塗って時間つぶしの「知育オモチャ」としてユーリに与えている。
ユーリはチーズが発狂寸前の大好物らしく、私がチーズを塗っている間、休みなく吠えつづけている。
困ったものである。

(1)にしても(2)にしても、要するにユーリの期待値が高まって、頭の中で臨界点に達すると、ぐつぐつと煮えたぎって、吠え声が出るらしい。
沸くとピーと鳴るホイッスル・ケトルのような仕組みなのだろう。

(3)については説明不要と思われる。家内は「あなたと遊ぶと、犬はみんなバカになる」という。

私が人間的な吠え方と感じるのは、(4)と(5)である。


▲カラスを見上げるユーリ。鼻のてっぺんに木の葉のかけらがくっついている。
2011年01月05日(水) No.97