俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

わが亡き後に洪水よ来たれ




「なんてヒドイことになっているんだろ……」
永い眠りから醒めた人のように、家内は室内を見まわして呆然と言った。
私も口には出さなかったが、ずっとそう思っていた。

訪ねてきた実家の妹が、ドアを開けるなり大げさに驚いて言った。
「お宅大丈夫? 正月が迎えられるの?」

ユーリがきてからはじまったわが家の荒廃が、このところいっそう加速して、準ゴミ屋敷が姿をあらわしつつある。


▲ゴミの中心に帝王然と座すユーリ。タオルケットは、その上で脱糞するという暴挙以来、すっかりユーリのものとなった

おそらく趣味の幅が広いのだろう、ユーリはじつに多方面に関心をもっている。
ダンボールの破壊と細分化に精をだしていたかと思えば、引きだしの取っ手を囓り、雑誌を食い散らし、ティッシュボックスを分解調査する……浅く広く、しばしも休まず骨惜しみすることなく活動している。

それにまた、このところ身体がメリメリと音を立てているんじゃないかというほどの勢いで成長しているユーリは、昨日まで届かなかったところに届くようになり、日々、新たな方面へと探査の手を伸ばしている。

家族一同深い感銘を覚えたのが、昨日ユーリが開発したばかりの新ワザである。
靴をくわえて自分の「巣」に持ってかえるという涙の出るような芸だ。
ユーリ君に説得はいっさい効かないので、靴という靴はみんな靴箱へと避難し、わが家の勝手口(玄関はない)からはかき消えるように靴がなくなった。
取り残されたのは、私のボロランニングシューズと家内の「もう何されてもいい」スニーカーであった。
もちろんそれらは現在、ユーリ君の巣にある。

じつに困ったことである。
でもね、ユーリが得意げに足どり軽く靴を運んでいく姿があまりにかわいらしいため、私は思わずそれに見惚れ、なんかこれを許してしまうんだな。いや困った。

2010年11月19日(金) No.85