俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

テツの335日




テツは昨年の6月19日にわが家にやってきて、今年の5月20日にわが家を去った。
335日ほどを一緒に暮らしたことになる。
不首尾に終わったトライアルで10日間留守をしていたので、正確には325日とするべきか。

ふり返ると、この間、私は生活のほとんどの時間をテツと過ごしていたような気がする。
これほどの濃密な付き合いは、相手が人間だって――いうまでもなく成人女性を想定するわけだが――できっこないと思う。
驚いたことに、初対面の印象を裏切って、それはほとんど苦にならなかった。
前半の90日間には「苦」がなかったとはいえない。
どこまで自分の身体がもつのだろうかと、不安になったこともある。
が、後半のテツとの生活はほぼ喜びと同義語だった。

テツはわが家で暮らすうちに、時間をかけて自分の入るべきスペースを見つけ、そこに上手に――力づくのときもあったが――自分を押し込んでいった。
いつか、テツとの別れを想像するのが辛くなっていた。

「こんなバカなラブは見たことがない」と辛辣だった実家の妹Aは、しまいには「こんないい子を手放すなんてバカだ」と言っていた。
いつの間にか、バカは、テツから私になっている。
最初からテツのファンだった妹Bは、「テツをヨソに出したら、一生ゆるさないからね」と何度も言った。

335日のあいだに、テツはゆっくりと、薄紙を剥がすように変わった。
だが、私も変わったのだ。
犬に対する考え方のある部分が、大きく、もしかしたら決定的に変わったかもしれない。


▲テツと少女の交歓風景。まったく臆さず、テツの両頬をグリグリとやっている。
祖母(昔犬に咬まれたので、犬はダメだとか)と母親が遠巻きに見ている(写真右側の2人)。
2010年06月26日(土) No.75