俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

ドンガラ走り




テツが全力で走る姿はスゴイ。
見る者に圧倒的な印象を与えずにはおかない。
どうスゴイかって、一生懸命さでスゴイし、動きのムダな大きさでもスゴイ、気合いの入り方もスゴイし、滑稽という点でもスゴイ。あらゆる意味でスゴイ。
家内はテツの走りを「ドンガラガッタ、ドンガラガッタのドンガラ走り」と命名した。

ジャンプと落下を交互に力いっぱい繰り返す動作は、事業仕分けの対象となって不思議でないほど盛大なムダだらけである。
さらにいうなら、いくぶんブザマでもある。
力感には満ち満ちているが、戸板が倒れるようにバタバタと動く四肢は円滑な協調性を欠いており、いっそう興奮すると2本の前脚をハの字に開き加減に力いっぱい高く上げ、まるでガマガエルの激走みたいになる。
遺憾ながら、テツはしばしば、家の中でもドンガラガッタ走りを敢行する。
ガリガリダダダダバリバリドシンドシンと。
床材に声があげられるなら、ありったけの悲鳴をあげるに違いない。



ところであなたは、サルーキの走りを見たことがあるだろうか。
生物の精妙な美しさこそが神の手の存在するあかしであると、創造説を唱える人々は信じたそうだ。
サルーキの走りを見ると、私でもそう考えたくなる。
「滑るように」という形容は、サルーキの走りにふさわしいが、じつはこれでもまだ十分ではないと思う。
滑るようになめらかに、飛ぶように速く、羽毛のように軽く……奇跡的でさえある。

でもね、転げるようにブザマで、激突するように騒々しく、タンカーのように重くとも、テツがドンガラ走りで一心不乱に私に向かって駆けてくる姿を見るのは、この世の最高の幸せのひとつだと思う。ほんとうだよ、テツ。ときどき笑っちゃうけど。

2010年05月12日(水) No.74