俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

ジュリアとピッポ――ピッポ純情なり



▲手前のオレンジの首輪がジュリア、奥がピッポ

6頭のなかでピッポは目立たない存在だった。

被毛の黒い子が3頭産まれた。
不平屋で活発なジュリアが飛び抜けて個性的だったため、同様に黒い被毛をもつ男の子2頭——ピッポとハルは、どうしても印象が薄くなってしまった。
胸の白いワンポイントでかろうじてピッポをハルと区別することができた。

その2頭の募集コメントには「中庸の気性」なんていう苦しまぎれの表現をつかった。
生後4か月になったピッポを短期間預かったとき、意外とこの言葉が正鵠(せいこく)を射ていたことを知った。

ピッポは(そしておそらくハルも)、ラブ的活動性や傍若無人と、繊細さがほどよい次元で調和しているのではないかと思う。
ピッポはその気になれば十分すぎるほどの暴れん坊である。
であっても、火の玉と化したときの小太郎や、無限エネルギー+女狐的奸智のジュリアと比べれば、どこかに自らをひきとめる静的な力の存在を感じさせることがある。
トラジのような不安症からも離れている。

ピッポは非常な遊び好きだった。
たびたび私に挑みかかり、唸り声をあげながら、ガブガブと甘噛み攻撃をしかけてくる。そのしつこさに、辟易することも少なくなかった。
ジュリアが加わると、ピッポの格闘ごっこの対象は私からジュリアに変わった。



いつでもどこでも、執拗に、唸り声とともにジュリアに飛びかかっていくピッポ。ジュリアは逃げながら機を見て反撃する。しばらくそうした構図が続いてから、「ギャィン!」という悲鳴がかならず聞こえた。
「ピッポ、いい加減にしろよ。ジュリアがイヤがってるじゃないか」
そう言って2頭を引き離した。ピッポはすぐまたジュリアに飛びかかっていく。

何度も何度もそんな光景が繰り返された。
ある瞬間、私はたいへんな思い違いをしていたことに気づいた。
悲鳴はピッポのものだったのだ。

2頭が格闘している最中の連続写真を撮ると、その様子がハッキリわかる。
飛びかかっていくピッポは、まったくジュリアに歯を当てていない。
思いきり相手の「急所」を噛んでいるのは、つねにジュリアのほうである。


▲ジュリアの容赦ない攻撃がピッポの首筋にヒット

悲鳴をあげるほど痛い目にあいながら、ピッポは嬉しそうに何度も何度もジュリアに挑んでいく。
ジュリア姉ちゃんに遊んでもらうのが楽しくてならないのだ。
純情なり、ピッポ。
2009年12月02日(水) No.60