俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
テツ還る
▲台風一過の日に――テツのトライアルはこの青空のような結果にはならなかった
ジュリアについての話の続きを書くべきところだが、テツの一身上にデキゴトがあったので、簡単なご報告をさせていただく。
テツがトライアルに行って、還ってきた。
トライアル先は非の打ちどころのないご家族だった。
遺憾ながら、テツは非の打ちどころのある子である。片手で数えられないくらいの。
トライアル先の先住猫がたちまちノイローゼに陥り、テツはやむなく帰還とあいなった。私には猫の気持ちが非常によく理解できる。
あまり詳しいことは書けないが、先方のご家族とお見合いをした日、私は、この一家と暮らすことができればテツは絶対幸せになるという確信めいたものを感じた。トライアルが成功することを切望したのである。
一方で、トライアルにテツが出ていった日、私は、激しい喪失感に襲われた。
テツをなつかしむ気持ちがとめどなく胸からあふれてきた。
その翌々日から2日間、私は寝込んでしまった。
喪失感からではない。テツとの暮らしで積もった疲労が、一気に噴きだしたらしい。※
こんこんと眠って、少し起きてはまた寝た。頭痛にまで襲われたから、体力が落ちたところに風邪をもらったのかもしれない。
そして、テツの喪失感はきれいさっぱり消えてしまった。
「衣食足りて」こそ、テツをなつかしむことができるのだと知った。
事実、テツが戻ってくることになって、私は一瞬「うげっ」と思ったのである。
(※住宅構造、私とテツの特異な性格、先住犬とのデリケートな関係など、さまざまなことがあり、私はテツがわが家に寄宿して以来、ソファで寝ている。息子と家内はこのソファで数時間寝ただけで、「体が痛くなっちゃったよ。よくこんなところで寝られるね」などというが、私はじつに4か月間ここで寝ている。で、テツはその足元のドッグベッドで寝ている)
▲こんこんと眠るテツ。「人にはとってもよくて、なんの問題もなかったんですよ」とトライアル先ご家族はおっしゃってくださった
テツはわが家に帰ってから2日間、こんこんと寝た。
まるで私のパロディを演じているようだが、つまりは、トライアル先のご家族に寝ずにストーキングしたということである。
テツの渾身のストーキングをこうむったトライアル先のご家族の身を案じずにはいられない。
そして、還ってきたテツは少し以前と変わっていた。
行動のはしばしに微妙な節度が感じられるようになったし、汚れがちだった耳の中がピカピカになっていた。
いいご家庭で暮らしていたんだなあと、あらためて思う。テツのバカヤローは手につかみかけていた幸せを逃してしまったのだと。
私はまたソファで寝ている。足元にはテツがいて、耳の中が少し汚れてきたように思える。
2009年11月13日(金)
No.57
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