俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

悪童参上――小太郎(1)




そいつは、恐るべき力いっぱいのバカだった。小太郎である。

最初のうち、状況を確かめるように庭を神経質な目で見まわしていたが、頭の中で号砲が鳴ったらしい。突然、弾けとんだ。
それはもう尋常なキレっぷりではなかった。
なぎたおせるものはすべてなぎたおしながら、右に走り、左から跳び、また右に走る。
私は、笑いながら傍観していた。

ところが小太郎は思いもかけぬ行動にでた。いや、こうなることを当然私は予期すべきであったのだろう。

メダカを飼っているカメに向かってジャンプしたのだ。
後ろ脚からドボンと水柱をあげて飛び込むと、肩から上を「湯」の外に出し、そこが五右衛門風呂でもあるかのように、そのまま気持ちよさげに浸かっている。

こういってはなんだが、このカメの中は、小さな生態系の宇宙になっていた。メダカと水草とタニシが調和のとれたビオトープを形成していたのだ。それを小太郎は一瞬にして、文字どおり、土足で踏みにじったのである。

お、お前! 
私は小太郎の首っ玉をつかむと、カメから引きだした。
底に沈殿していた泥がまきあげられて、あれほど透明だった水は、真っ黒に濁っていた。
ミクロコスモス(小宇宙)の惨状からようやく目を上げた私が、「小太郎はどこへ?」と行方を確かめようとした瞬間、またもや小太郎が全力でカメに飛び込んできた。

上は、ふたたび首っ玉をつかんで外に放りだした直後の写真である。
左の背後にカメが見える。周囲に飛び散った水も。
小太郎はこれから花壇の破壊に全力を尽くそうとしているところだ。すべてに全力を尽くす。
この後、家内が丹精したプランターの上で何がおこなわれたか、私は怖くて書けない。


▲力いっぱい寝る小太郎
2009年10月02日(金) No.52