俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

テツの謎(3)


よく知られた話ではあるが、ラブのもとをたどれば、レトリーブ(retrieve=回収する)に適化された鳥猟犬だ。
ハンターが撃ち落とした獲物の鳥を口にくわえて、ハンターの手元まで運ぶ。獲物を自分の歯で傷つけないよう、細心確実に回収する仕事である。犬の佐川急便といったところか。

私を含むたいていの人間は自分の仕事をするのがあまり好きでない。仕事のストレスを酒で発散したり、日曜日の夜には具合の悪くなったりする人も散見されるのに、ラブは仕事をするのが大好きである。仕事自体がストレス発散になるからアルコールも必要ない。

本能の近くに刷りこまれたこの能力を利用して、新聞受けから朝刊を取ってこさせるラブの飼い主さんもある。ラブは嬉々としてこの用を果たす。
ときどき、得意げに口にマナーポーチをくわえて散歩するラブがいる。
私は生まれてはじめてその光景を見たとき、近所になんという名犬がいるのだろうかと驚嘆したものだが、あれはラブにとっては自らに強制するものではなく、ごく自然に近い行為だった。



テツもラブの名に恥じず、何かをくわえて運ぶのが大好きである。
まず、足拭き用のタオルを片端からくわえて、自分の巣(ドッグベッド)に運んだ。テツにコレクター趣味があるとは知らなかったが、次には息子の足袋(たび)ソックス収集を開始しているところを見ると、コレクターというのが高い趣味の持ち主とはかぎらないのは、人間と同じである。

散歩に行くときは、興奮と嬉しさで、ついリードをくわえてしまう。
「持て」と命じれば「合点承知」と欣喜雀躍してリードをくわえて庭に飛びだしていくが、じつは命じなくてもくわえるのである。

ラブと暮らすとき、この特質を上手に利用すれば、お互い愉快に、有意義な(?)人生を生きることができる。
たとえば、ボールを投げてラブに回収させ、また投げる。私は楽で、犬は楽しい。私は動かず、犬の運動になる。
だが、テツにはそうした遊びを経験した痕跡がなかった。
ボールを追いかけてはいくのだが、そのまま手ぶらで帰ってくる。ボールをくわえるようになると、今度は戻ってこない。ようやく、くわえて戻ってくるようになると、今度は渡さない。
はて……?
2009年08月28日(金) No.42