俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

惨事への扉




テツに留守番させるときに、私の脳裏をかすめたのは、以前に見た1枚の衝撃的な写真だった。
室内に1頭の黒ラブと、散乱した材木片が写っている。
黒ラブを飼っているご夫婦が外出から帰ると、家の引き戸が1枚消え、代わりに粉砕された木くずが床に散乱していた。
破壊現場の前で黒ラブは、「誰だろうね、こんなひどいことしたのは」と素知らぬ顔をして写っている。

ラブには「ハウス・ブレーカー」の異名がある。
若いラブに長時間の留守番をさせるのは「さあ、家を壊してください」とけしかけるようなものだという。
テツは大丈夫だろうかと、今度は私のほうが分離不安にかかりそうだった。
凶相で吠えかかっていたセンターの姿が思いだされた。
置き去りにされたテツは荒れに荒れ、破壊衝動を発揮するのではないか……。

その心配が盗み食いへの徹底的な配慮を頭から追いやろうとしていた。

それに――告白するが、一方で、もしかしたらテツは、私と別れて独りぼっちで留守番することに悲嘆して、ずっとうなだれて、悄然(しょうぜん)と過ごすのではないか。などという愚かな考えもちらりと頭をかすめた。
犬の行動を人間的思考になぞらえるのは、典型的なディズニー映画的誤断、誤解であるけれども、ラブがあまりに人間的だったため、私もつい、この罠に落ちたのだった。

もちろんテツはそのような筋道では思考しない。
次に起こったのは、わが家にとっては小さな惨事といっていい部類の一連のできごとだった。
2009年08月09日(日) No.35