俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

ドッグラン





外泊したその知人の別荘の近くにはドッグランがあった。
テニスコート2面分ほどの広さの小さな芝生張りのドッグラン。
あまり犬に詳しくない人が設計したものと見えて、牧歌的な雰囲気のある低い柵――当然ながら飛び越える不埒者が続出したのだろう――の上に急ごしらえの粗末なネットが追加してあった。
家内と私とカンペイ以外には誰もいなかった。

カンペイを放すと、それはもう全身から喜びという喜びを発散して、まさにはじけるように走った。
ぐるぐると円を描いて、次いで私たちの目の前を右から左に、左から右に、いやデタラメに心のおもむくまま。
私たちのすぐそばを駆け抜けるときには、私たちに向けて喜びの表情を全開し、自分がどれだけ楽しいのかを私たち知らせようとしてるみたいだった。
ときどき私や家内のヒザに軽くぶつかってみたり、自分のシッポを追いかけて歓喜のぐるぐる回りを披露してみせる。


若旦那、シッポの巻きが弛んじゃってますぜ

私は何度かカンペイがドッグランで自由に遊ぶのを見ている。隣県の広い公園に連れていって、フレキシブルリードで遊ばせたこともある。
だが、家内はドッグランのカンペイを見るのははじめてだった。
喜びをばらまいて走るカンペイの姿は家内に感銘を与えたようだった。
「こんなに喜ぶなら、もっと連れていってあげたらよかったね」

「オレが連れてったときより、ずっと嬉しそうだなぁ」
私ひとりと行ったときの何倍もの喜びようだった。
家内も一緒にいて、ドッグランにはこの家族だけというシチュエーションが、やはりカンペイの気持ちに違いを生んだのだろうか。
このスレッカラシの私ですら、家内ほどではないにせよ、いつにないカンペイの姿には軽く心を動かされたのだった。


出た! 得意のシッポ噛み高速回転

それに、これは他の柴にも共通する美点かどうかはわからないが、(私と家内が退屈を感じはじめるほどには)十分に遊ばせてから、帰り支度をしてカンペイを呼ぶと、しゅる〜とテンションを下げて、あっさりと2人のところに戻ってくる。
逃げ走りして「イヤ、オレは絶対に帰らない」とかしないのである。

ラブだったらこの10倍は遊ばなければ発散し尽くさないだろうし、ラフ・コリーだったら30倍、セッターだったら100倍でもきかず柵を飛び越えて近くの山に向かって全力疾走したきり半日は帰ってこないに違いない。
つくづく柴は身の丈にあった生きものなのである。


オレ充
2014年02月16日(日) No.168

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