俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
ラキ男のこと(4)
ラキ男はカメラのレンズを向けると少し表情が固くなる
コーギーはよく知られているように、歴史的には牛追い犬として使われていた犬種だ。
「ヒーラー(heeler=heel「かかと」から来た言葉だろう)」と呼ばれる犬たちが1800年代の英国に存在したという。
牛を市場まで追い立てていくのがその役目だが、コーギーもそうした犬種のひとつだったらしい。
同系種のカーディガン・ウェルシュ・コーギーについて「犬種大図鑑」(ペットライフ社刊/ブルース・フォーグル著)には次のように書かれている。
「家畜のくるぶしに噛みつきながら家畜を市場に追っていく役目をしていた“ヒーラー”の本能を持っています。家畜が振り回す蹄(ひずめ)を避けられるように、地面に着くくらい低い体形をしています」
自分の数十倍もの体重がある牛の群れを追い立てるという苛烈な仕事に従事するコーギーたちは、きっすいの肉体労働者であり、恐れを知らぬ不屈の精神と酷使してもへこたれない肉体的スタミナが不可欠だったろう。
そのハーディング(群れを追い立てコントロールする)能力は歴史の向こう側に埋もれてしまっているわけではない。
少し以前に人から聞いた話なので現在の様子はわからないが、大手フライドチキン・チェーンが北海道に鶏を飼育する農場(観光農場?)を開いており、そこではコーギーが放し飼いの鶏のハーディングに活躍しているという。
その姿がいきいきとあまりに魅力的なため、見学者がこっそり連れ帰ってしまうので困っているという真偽の定かでない話も聞いた。
この無防備な寝姿を見るのは人の幸せのひとつだと思う
多くのコーギーたちは、先祖からその短く太い脚や小粒でファニーな外見を引き継いだのと同じくらい、ハーディングへの強い意欲を受け継いでいる。
それこそが私たちが愛してやまないコーギーの数々の美点をかたちづくっている原資であるのだが、一方で、家庭犬としての副作用ももたらすことになった(そもそも家庭犬として人と暮らすことを考えて作出された犬種ではまったくないのだから、このことに関してコーギーに罪はない)。
たとえば「360°ビジュアル犬種大図鑑」(インターズー刊、デビッド・アルダートン著)
(※)
のペンブローク・ウェルシュ・コーギーの項にはこう書かれている。
「ペンブロークはいくぶん咬みやすい傾向があります。ペンブロークは生来活発なため、これは攻撃行動ではなく本能です」
「散歩や食事を待っているときにかんしゃくを起こし、飼い主に無視されたと感じたときに、飼い主の足首を咬むことがあります。また、仲間や他の犬種とけんかしたがることがあるので、運動させるときはにはこの点を心に留めておいてください」
(※)多くの犬種図鑑と称するものが、犬種のメリットばかり並べたてているのに比べて、この犬種図鑑は犬種のデメリットをきちんと記載しようと努めている点で好感がもてる。
欧米の複数あるコーギー・レスキュー団体のサイトを覗くと、どこにもほぼ共通する言葉が書かれている。
「コーギーは初心者向けの犬ではありません」
「小柄で愛くるしい見かけから判断を誤らないでください」
なかには、わざわざ「コーギーと子供」というページを設けて、コーギーが8歳以下の子供との同居には適さないことを、コーギーに対する深い愛情を一語一語にこめながら、噛んでふくめるようにていねいに説明しているサイトもあった。
そこではこう結論する。
「そういうご家族にはスパニエルを奨めます」と――。
そう、スパニエルなのだ。まさにコッカーやキャバリアに代表される犬種である。
2013年12月13日(金)
No.159
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