俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

柴は気が小さいんですだよ



子犬と出会う。不屈の「遊ぼ」コールにカンペイ少しメゲかかる

「柴は気が小さいんだよ」
近所の公園を通りがかると、愛犬の柴について話す老人の声が聞こえた。
愛情が悪口になって、こうしてこぼれ落ちているのである。

そう、柴は小心である。

晩夏のある日、大ぶりのサンマを買ってきた。
これをセオリーどおり遠火の強火で網焼きした。
私はサンマが大好物なのだが、そういえば近年、あまりサンマを食べなくなっていた。
その理由を、この夜の惨事でハッキリと思いだすことになるのだが、スーパーの魚売場ではサンマの活きのよさに心を奪われて、さっぱり思いいたらなかった。

わが家の換気扇には外付けのフィルターを上からはめ込んである。このフィルターにべとべとの油汚れが滲みこんで、いまやフィルターなのか油性の膜かわからない状態になっていた。
ほとんどまったく汚れた空気を外に吐きださない。
ガス台から盛大に立ちのぼった煙が、換気扇のある上方に向かわず、横にたなびいていくのを見て、こりゃダメだと思ったが、事態は私の想像をはるかに上回って悪化した。
慌てて窓を全開にしたが時すでに遅く、家中にサンマ臭い煙がもうもうと充満した。
家内とふたり、途中であきらめて、煙の中でサンマを食べた。美味だった。
ふと室内を見ると、それまで家族の慌てふためきぶりを前にオロオロしていたカンペイが、いつの間にか姿を消している。

カンペイは隣の部屋(ここにも煙が盛大に侵入していた)に逃れ、雑多なものの間にできたごく小さな空間に身を押しこむようにして隠れていたのだった。
これまでカンペイがここにいるのを見たことはなく、だいたいこんな小さなスペースに犬が入り込めると考えたこともなかった。
よほど煙が怖かったに違いない。


タコ壺に身を隠すカンペイ。目が弱ってる

昨日は、めったなことでは声を出さないカンペイが冷蔵庫に向かって吠えた。
家内が冷蔵庫のドアを開けただけなのだが、ただしいつもとは逆に開いた。
このシャープ製冷蔵庫の最大(たぶん)のウリは扉が右開きにも左開きにもなるという点である。
しかしわが家ではスペース的な問題から、もっぱら右開きのみを使い、左側に開くことはあまりない。
この夜、珍しく家内が左側に開いたところ、カンペイが「ナニか違うじゃねーか」と吠えたのである。
その直前に、家内が何かを床に落とした音がきっかけだったにしても、これまで冷蔵庫のドアの変異に吠えた犬は絶無だった。
カンペイは常日ごろはステルスな存在で、インタフォンや電話の音にもまるで無反応だから、たしかに目のつけどころがシャープな気はする。

また、散歩していて気づくのは、コイツは水の音に極端に弱い。
池の上を渡る木道が近くの公園にあって、私はそこを犬と歩くのが大好きなのだが、カンペイは一度その木道上で、餌やりを期待して集まってくる鯉の水音に恐怖してフリーズして以来、二度と行こうとしないのだった。
こういう犬ははじめてである。

「瀬音」がする川には、私と一緒には近づきたがらない。リードを引くと、腰を後ろに落として抵抗する。
「勝手にしろよ」と放置して、私だけ川を覗いていると、いつの間にか少しだけ私から離れた位置で川を覗きこんでいる。

こうしたピントの少しズレた小心さも、柴のかわいいところだと思う。
けれども、自分の犬のそのかわいさについて容易には他の賛同は得られないだろうと思っているから、柴の飼い主はちょっと自虐的な口ぶりになったりするのである。

※セミの踊り食いという人生最大の娯楽を見つけたカンペイにはさぞや残念なことだろうが、長かった今年の夏も終わった。
この間、日記をずっとサボってしまって反省しきりである(←原子力安全・保安院が口にする程度の反省ではあるが)。


こうして高いところから覗くのは平気。瀬音がする水に近づくのが怖いだけよ
2012年09月22日(土) No.149

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