俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
コリー(1)
▲まだ幼いユーリ
「いまの若い人はコリーを知らないのよ」
家内が重大発見のように言った。
「名犬ラッシーの犬といったらわかるんじゃないか」
「違うのよ、名犬ラッシーだって知らないんだから」
私たちの世代にとっては少なからぬ驚きであるが、いつの間にか、コリー(ラフ・コリー)はきわめてレアな犬種になっていた。
『名犬ラッシー』すら知らない人が増えている。
この文章を書くにあたってJKC(社団法人 ジャパンケネルクラブ)のサイトで昨年(2010年1月〜12月)の犬種別登録数を調べて、愕然とした。
1位はプードルで、トイからスタンダードまであわせて92,036頭。これにチワワ、ダックスが続く。
大型犬では、ゴールデンが13位に入って6,935頭、ラブが15位で5,307頭。
リストのずっと下、59位になってようやく「ラフ・コリー」の名が見える。
サモエドよりひとつ下の順位にあって、頭数は122頭。
ボルゾイの約4分の1強、ミニチュア・ブルテリアの約半分、ゴールデンと比べれば、じつに50分の1以下である。
コリーが「人気犬種」だった時代を私は知っている。
公園で知り合った犬飼いの人たちや会のメンバーと話すうちに、「コリー経験」が世代を分かつ分岐点になっていることに気づいた。
「コリー、大好きなんですよ。子どものころコリー飼ってたんです」
「コリーでしょ。小さいころ、知り合いで飼っている人がいたから」
そういうふうに懐かしさいっぱいで話すのは、皆さん、推定50歳以上の方々。
昭和30年代前半から放映された『名犬ラッシー』(日本では'57〜'66年に放送)をテレビで見た経験をお持ちの世代である。
さらに筋金入りになると(というより少し年齢が上がると)、『名犬リンチンチン』(日本では'56〜'60年に放送。騎兵隊の少年とシェパードが主人公)もよくご存じである。
『名犬ラッシー』は日本でも大人気ドラマとなった。
そこで見たコリーという犬には、誰もが驚いた。
当時の日本の犬は、たいてい小さな犬小屋の脇で繋留飼いされていた。犬は犬、人は人。そんな時代であり、考え方だった。
ところがラッシーは家のなかに平気であがりこみ、床で寝そべったり、家族と一緒になって暮らしているのだった。
しかも、なぜしゃべれないのか不思議なほど人の言葉を理解し、人の要求にはやすやすと従い、それどころでなく、家族のたびかさなる危機を救ったり、危険を報せたりする。
そして、誰に対してもやさしく、悪人は容赦なく懲らしめるのだ。まるで絶対善が犬にかたちを変えたような存在だった。
コリーというのはよほどすごい犬種なのだろう、コリーを飼えば、みんなこんな素晴らしい体験ができるのかと考えたところに、大きな誤りがあったのだが、当時はほとんど誰も気づかなかった。
それらしく見せるためのカット割りの工夫や、テレビ画面の外で訓練士が誘導しているという事実を、思いつく人はよほどマレだったろう。犬を訓練するなどということは、当時の日本にあっては、警察犬のような特殊な世界でのみのデキゴトと考えられていたと思う。
いまの犬種ブームなどと比べればじつにささやかなものにすぎないが、日本でもコリーの小ブームが起こった。
そうしてある日、私の実家にもコリーがやってきたのだった。
2011年03月06日(日)
No.109
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