俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

警戒吠え(1)



▲東京の12日の雪はすぐに溶けてしまう程度のものだったが、朝の冷え込みは尋常ではなかった。
凍れるものすべてが凍っていた。いつもの木道もこうして凍りついていた。
ユーリは私の150倍ぐらい寒さに強い。苦手だった木道もいつの間にか歩いてわたれる。


東京に2度雪が降った。
最初の雪の翌日のことである。

私が寝転がってテレビを観ていると(私の場合、寝転がるのとテレビ鑑賞はワンセットになっている。最近そのセットに睡眠も加わった)、ユーリがガラス窓越しに激しく外に向かって吠えだした。
庭を猫が横切ったか、カラスが跳梁しているのか、あるいは風に揺れる洗濯物か……。
吠え方にただならぬ熱意がこもりだしたので、私も外を覗きこんだ。

しばらくは何も変わったものは見えなかった。
と、目の端を何かが動いている。
隣家の屋根に男性がいるではないか。
目をこらして見ていると、雨樋の雪を除いているようだ。

わが家と隣家のあいだには切り立った段差があり、隣家の敷地は2メートル以上落ちこんでいる。そのせいで隣家の2階は、わが家の1階とほぼ同じ高さになる。
隣家は木造モルタルだと思うが、ふつうの切妻屋根とは違って、コンクリート住宅のような真四角な構造をしている。
だから、屋根の部分は平面になっていて、おそらく周囲のぐるりに排水溝のようなものが切ってあるのだろう。
野心的な設計である。
しかし、排水溝に雪がたまって水はけが悪くなると、水が屋根側にあふれだして不都合が生じるのかもしれない。
野心的な設計の住宅というのは、おおむねそこで生きて暮らすにはなにかしらの不都合が生じるものである。


▲隣家の方向に吠えるユーリ

その男性はたぶん隣家のご主人で、せっかくの休日の午前中をこうして屋根の端から端まで点検し、何か(溶け残った雪か落ち葉だろうと思う)をかき集めていた。
これにユーリは激しく吠えたのだった。

よく考えるまでもなく、このときのユーリの行動は犬の行動基準に照らして正当である。
隣家の屋根でうろうろと動く怪しい人影があるなら、白紙の頭で考えれば、それは異変中の異変だ。吠えるに値するデキゴトである。
誤爆続きだったユーリがはじめて的確なアラームを鳴らしたといえる。

私だって屋根の上の男性を見たときには一瞬ギョッとした。
ただ、すぐに私の高性能脳内コンピュータが高速処理を開始して、過去のできごとなどをつなぎ合わせ、男性が日中屋根の上でうろうろしている意味を思いつき、警報を解除した。
ひょっとしたら私の理解のほうが間違っていて、男性が泥棒だった可能性だってないわけではない。


▲思うように遊んでくれないゴールデン君に「ちゃんと遊べー!」と吠えかかるユーリ。
ゴールデン君は馬耳東風。表情はすでに春爛漫である。もちろんこれは警戒吠えではないけどね
2011年02月18日(金) No.104

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