俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

運動会



▲運動会場で初対面の女の子と。どちらもお子さまだが、女の子は心のどこかに「アンタのこと守ってあげる」と、
けなげな乙女的真情を宿しているのに、対するユーリはスッカラカンのアッケラカンである。


Perro Dogs Homeの運動会にユーリと参加した。
ユーリは車酔いするので、往復の車中はさぞや地獄だったと思う。
全身ヨダレ小僧に変わりはててクレートから這いだしてきた。

しかしヨダレ1リットルの代償を払っても、やはり行ってよかった。
運動会には100頭以上の犬、そして人数不詳の人間たち(幼老青壮男女)が参加していたので、これはもうユーリにとって絶好の社会経験の場となったのである。

ユーリと会った人の反応から「かわいいー」を差し引いて仕分けすると――
「思ったより小さいんですね」
「思ったより大きいんですね」
の2つになるだろう。

しかし100頭を超える犬たちそれぞれの反応となると、これはもっと複雑精妙である。
ユーリの4分の1ぐらいの大きさしかないチワワ(だったと思う)は、ユーリが近くを通るとかならず激しく吠えながら爆走して向かってきた。
近くまで走り寄ってユーリを十分に驚かすと、それ以上は決して深追いしない。クルッと引き返す。
ユーリが近くを通るたび何度もそれをした。他の犬に対してはそういうことはしないのに。
これは、私にはなかなか楽しい光景だった。
飼い主さんは「ウチの子は本当は弱虫なんですけどね〜」と嘆息していたが、たぶん、弱いからこそ、数少ないもっと弱いヤツを見つけたとき、小躍りして会心の遊びをしかけたのである。
きっとこの子にとって、胸のすくような1日だったに違いない。


▲犬たちはただブラブラしているように見えるが、じつはドラマ満載であった。

ドッグランの広い空間で自由になったとき、草原で羊を追いかけていた遠い本能の記憶が呼びさまされたのだろう、ユーリははじけるように走りだした。
グルグルと大きな円を描いて、嬉々として走る。
すると、その姿を見て、牛を追いかけていた遠い本能の記憶が呼びさまされた子がいた。
コーギーの男の子、ハッピー君である。
いつの間にか、ユーリは影のようにハッピー君の追走を受けていた。


▲ふと見るとコーギーが追走をはじめていた。

振り切ろうとしても、振り切れない。当たり前だ、相手は職業的追走者である。
ユーリは私の近くに逃げてきた。
私がなんらかの後ろ盾となってくれることを期待したのかもしれない。
が、すぐに私がなんの助けにもならないと知って「チッ、クソオヤジが」と走り去っていった。
そして――私はいたく感心したのだが――ユーリは会場に設けられているプレハブ小屋に走りこんだのだった。
その後もラブ系の犬に追いかけられたことがあったが、どの子もプレハブ小屋にユーリが逃げこんだところで、追撃をやめる。
一定の条件が解除された瞬間、ゲーム終了となるわけだ。
私は犬社会のフェアな遊びに感心し、ユーリの機転に感心した。


▲静かに運動会を見学しているお利口さんに見えるが、じつはとっくにエネルギー切れを起こして動けないのである。

運動会場で、参加者のおひとりから「いい子ですねえ。すくすくとこのまま育つといいですね」と言われた。
そう、私の役割は、まったくのところ、そこに尽きる。
2010年11月24日(水) No.86

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