俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

お祭り




地元の(史実デッチあげの)お祭りがあった。
驚くべき盛大な人出となって、中心地となった近くの公園周辺は世の善男善女であふれかえっている。

私は人ごみほど嫌いなものはないのだが、テツを連れて人ごみに出かけるという経験も悪くないと思った。一度やってみるか、と。
混み合った駅のコンコースや都心の繁華街にテツを連れていけば、周囲は絶対に寛容ではありえないだろうが、なにしろお祭りである。テツの存在も好意的に受けいれられるに違いない。(事実、みなさん寛容でした)
正直に白状するが、久しぶりの暖かな太陽の下で露店販売の生ビールを1杯か2杯……というスケベ心もないではなかった。

だが人ごみに入って数分で私は後悔した。来るんじゃなかった。
身動きがとれないほどではないが、気分がまったくせわしなくていけない。
申しわけ程度に歩いてから、引き返すことにした。
Uターンして、歩いて来た道を戻り、人ごみを外れてわが家に向かう道に踏み出したとたん、テツが足を踏ん張って「そっち、行きたくねーんだけど」。
は?

テツは人ごみが大好きなのか。
そういえば、ずっとマーキングの素振りすら見せない。
嬉々として右左を見まわしながら人と人のあいだを縫って歩く。まわり中全部が人というシチュエーションがテツの長年の夢だったらしい。
その顔には「なにこれ、すげー楽しいんですけど!」と書いてある。



私と好みが真逆である。
しかたないので、テキトーに人ごみを歩いてから、さりげなく路地に折れて帰路に向かおうとすると、どうしてわかったのか「オレ、帰らねぇ」とテツは足を踏ん張った。

もしかしたら、テツは広漠たる大自然はお嫌いかもしれないという気がした。
2010年04月26日(月) No.72

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