俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
くわえるテツ
雪が降った。
テツと散歩にでたら、じつに奇妙な行動をする。
だしぬけにプレイボウの姿勢(頭までの上半身を伏せの状態にして、お尻をピンと直立させる)になったかと思うと、雪をちょっとだけ囓ってそのままジャンプする。
そしてまたプレイボウ……と、これが繰り返されるのだ。雪は囓ったり、囓らなかったりする。
なんだ、嬉しいのか。
そして今度は、私の同意も得ずに、リードをくわえて激しく引っぱりっこを始める。
私が思わず前につんのめるほどの力でぐいぐい引く。ときどき小さな唸り声もあげる。
テツは喜びの瞬間に、モノを激しくくわえたくなる衝動が起こるらしい。
まあ、これが奇妙だというなら、人間のガッツポーズだって同じくらい奇妙である。
嬉しいとき、ハイになったとき、テツは手近のモノをくわえようとする。
誰かが帰宅すると千切れんばかりにシッポを振りながら飛んで迎えにいく。戻ってくるときには玄関にあった誰かの靴をくわえている。
ときどきわが家の床には靴が転がっている。
家中にテツの足拭き用のタオルが散乱しているのも同じ理由である。
私が朝起きて寝室から出てくると、テツはその場で気絶するのではないかと思うほど喜び、私に思いきり体をぶつけ、パジャマの袖をくわえて叱られる。
もちろんこれは、ラブという犬種に深く刷りこまれたレトリーヴ(retrieve=獲物回収)の習性からきているのだろう。
この性癖を利用して、家内が朝刊を私に届けさせる役目をテツに任じたことがある。
テツは喜んで朝刊をくわえ、私のところに全速で配達する。
が、困ったことに、2回に1回はそのまま引っぱりっこモードに移行するのだ。
新聞はテツのヨダレでグチャグチャに汚れ、破れる。
新聞配達の仕事はそういう事情で解任された。
ラブとの暮らしが楽しいものになるかどうかは、生活に生じるこうした破調(破綻ではない)を人が喜びと感じられるか否かにかかっていると私は思う。
2010年02月03日(水)
No.67
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