俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
人間的あまりに人間的
――と、昨日の日記にはしかつめらしいことを書いたが、じつはあそこには仕掛けがあった。
賢明なる諸氏はお気づきかもしれないが、昨日の日記、1枚目のテツの表情がパッと明るく輝いている写真と、2枚目のテツの顔がどんより不安に覆われている写真は、同じレンズでほぼ同じ距離から撮られている。
え、テツは人が離れると不安顔になるんじゃなかったの?
だから仕掛けがあると申しあげた。
1枚目の写真を撮った場所は、テツと私が散歩でほぼ毎日のように訪れる場所であり、ここで何回かリードをつないで撮影したことがある。
さらにこのときは、いったん遠く離れてから、声をかけて、テツのところに戻りながら写したのである。
2枚目の写真は、散歩で何回か訪れた場所ではあるが、ここでリードをつないで撮影したことは一度もない。
3枚目と4枚目の写真は、はじめての公園に車で出かけて撮影したものだ。
この事実は、テツの不安は「未知」への恐れと密接に結びついていること。そして、テツも学習と経験を積めば不安は克服できるのだと教えていないだろうか。
つまり、私たち人間と同じなのだ。
私たちは他人の話を聞いたり、事前に本やネットで情報を得て、未知をある程度既知に変える心の準備ができる。本当に未知の経験に出会うことは、めったにない。
あまり意識していないかもしれないが、自分の経験則から判断できない事態に出会うと、多くの人は思考停止に陥ったり、不安で固まったり、慌てふためくのである。
私ははじめてパスモ(SUICAの私鉄版)のチャージをしたとき、自動チャージ機の使用法がまったくわからず、慌てて、やみくもにタッチパネルを押した結果、紙幣挿入口から入れた1万円をまるまるチャージされてしまい、「使い切らないうちに絶対に(パスモカードを)なくすよ」と家内に断言された。
テツは本を読まないし、ネットで検索しない、私の話もまったく聞かないから、自らの直接的経験しかよりどころは持っていない。
不安で胸をいっぱいにしているテツを見ると、私はむしろ人間的な親近感を覚える。
2009年12月30日(水)
No.64
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