俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

トラジの不安(1)



▲こんなに小さいときから小太郎はスケールが大きかった

小太郎が兄弟姉妹でいちばんラブ的であると私は書いた。
では、ラブ的でない何かが、小太郎にあるのだろうか。
あると思う。
ときどき見られる線の細さ、薄暗がりに身構える子どものような神経質さがそれではないだろうか。

はじめての環境に出会ったときなど、小太郎は非常に用心深く、周囲を固く閉ざすような様子を見せることがある。それは短時間で消え失せてしまうのが常であったが。

私は黒ラブの子犬♂を長期間預かったことがある。表も裏もなく、つねにスロットル全開のバカタレで、かわいさ百倍、憎さ千倍だった。
その黒ラブにこういう繊細な表情は見たことがなかった。

一般に、周囲の人間が神経衰弱になることはあっても、ラブの子犬自身には、神経質の「し」の字もないようだ。Perroで募集していた153cのビーグル子犬のロッタちゃんになると、さらにその上をいくらしい。
神経質の「し」がないどころか、死にものぐるいの「し」で体中が満杯だというのだ。
じつはそうした猪突猛進的無神経も、何かをおこなうための犬の優秀さのあかしであると私は思う。(でない場合もむろんある)

おそらく父親譲りと思われる繊細さは、小太郎の性質に微妙なやわらかさを与えている。そこが、いわゆる純粋種のラブの子犬より扱いやすさと共感を覚えさせる点だと思った。
こうした繊細さは、多かれ少なかれ、この兄弟姉妹6頭に共通している。
なかでもいちばんそれが色濃く出ているのがトラジだった。



甲斐犬とよく見間違えられるプリンドルの被毛をしたトラジは、誰よりも父親似なのだろう。
産まれた直後から体はいちばん小さく、その後も兄弟姉妹での体格的位置づけは変わらなかったように記憶している。
食餌のときに、いつもボヤボヤして他の子の後塵を拝していた。
当時、子犬たち全部(と母犬)の面倒を見ていたボランティアは、しょっちゅう食いはぐれるトラジのことをよく気にかけていた。

その後、6頭の子犬たちは母犬から離れて、それぞれ別の預かりボランティア宅で暮らすことになった。
トラジを預かっていたボランティアさんの事情で、ごく短期間、トラジが私の家で過ごすことになった。
ボランティアさんがわが家まで車でトラジを送り届けてくれることになっていたが、わが家の周囲の狭い道で迷い、少し離れた場所から電話があった。

わが家から100メートルほどのその場所まで、私は歩いてトラジを受けとりに行った。
予想もしなかった困難が私を待ち受けていた。
一瞬ではあるにしろ、トラジを連れては自宅に無事に帰り着けないのではないかとすら思ったのである。
2009年10月18日(日) No.54

No. PASS