俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

悪童参上――小太郎(2)




小太郎は、黒ラブ(と思われる)母犬とMIXの父犬のあいだに生まれた6頭の子どものうちの1頭である。
飼い主は、子犬が産まれるとすぐ、この一家全員を残らずセンターに送った。

私たちは、父犬を除く母子7頭を引きとった。
父犬は、私の記憶に間違いなければ一般譲渡(センターから直接、飼い主さんに譲渡される)によって、新しい飼い主さんのところに行った。
父犬が新しい飼い主さんと一緒にセンターの門を出ていくところを、偶然、私たちは見送っている。

「遺伝とは、子が親に似る現象である」(『遺伝子からのメッセージ』井上薫著、丸善ライブラリー)
斧で断ち割るような、この本の書き出しの一文に、たいていの親は内心震え、子も親を見て震えるに違いない。

しかし幸いなことに、人間も犬も単性生殖ではないから、実際には、コトはそう簡単には割り切れない。
顔立ちや体型など外に明瞭にあらわれた部分以外で、どこのどの部分がどちらの親に似たのか、見分けるのは容易ではない。

父ちゃんと祖父ちゃんがチャンピオン、なんてプロレスラーみたいな家系図を持っていたりする純血種の場合、父も母も(祖父ちゃんも祖母ちゃんも)似ているのだから、子が似て当たり前である。少なくとも外見的には。



小太郎ファミリーのケースとなると、話は厄介になる。
アマゾネス的な黒ラブ母ちゃんと、小柄で人のよさそうなMIX父ちゃん。
恰幅のいい母ちゃんが威勢よくまくしたてるのを父ちゃんが黙ってニコニコと聞いているような夫婦かもしれないが、そのあいだに産まれた6頭の子犬たちである。
「子は親に似る」といわれても、いったいこれほど違う両親のどこがどう似るのだろうか。

6頭の子のなかでもっともラブ的なのは、間違いなく小太郎だった。
産まれた直後から体もいちばん大きく、万事にスケールの大きな子だった。木を切れば木っ端が飛ぶぜよ、といった豪快でストレートな気質の持ち主でもある。肉が固く詰まり、マッシブで、熱すると火の玉のようになる。
カートで屋外に連れ出すと、たいてい先頭の位置を占めた。



イタリアの古い村のことを書いた小説に、猟師たちはつねに、たくさん産まれた子のなかからいちばん強健で活力のある子を1頭だけ選び、手塩にかけて育てるという話があった(他の子はもちろん村人に譲る)。
彼らが、すぐれた犬をどれほどたいせつに思っていたかは、2頭の犬のことを描いた美しい一篇の小説「アルバとフランコ」の次の一節をお読みいただきたい。
金持ちのある猟師が、当時九万リラで、アルバを譲ってくれと申し出た。立派な牝牛が買える値段だったし、家計も楽ではなかったが、老いた父親までも、うんとは言わなかった。そうなのだ、金銭の問題ではなかった。(『雷鳥の森』マリオ・リゴーニ・ステルン著、志村啓子訳、みすず書房)

この6頭のなかから選ばれるとしたら、おそらく小太郎になる。
器の大きな、可能性をもった子だが、それは容易に扱えることを意味しない。ほとんどその逆である。


▼いつも力いっぱい寝る

2009年10月04日(日) No.53

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