俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
交換経済
あらかじめお断りしておくが、私は犬のトレーナーでもないし、動物行動学に詳しい人間でもない。
これから書くことは、ただ単に私のやり方というにすぎず、間違っている可能性が(大いに)ある。
くれぐれも手本になどしないようにお願いします。
テツはボールをくわえて私のところに戻ってくると、見せびらかすようにして、すぐには渡そうとしなかった。
ここからのやり方は2つあると思う。
ひとつは粘り強い説得だ。
私の手を差しだして、「出して」(あるいは「オフ」でも「放せ」でも「出せ」でも)とドスの利いた声でお願いする。
怒鳴ったり、声を荒げたりする必要はない。
説得を何回か繰り返していると、テツの目が微妙に泳いで、「チッ、しかたねーな」と、ボールを固くくわえた力を少し緩める。
そのときボールをつかんで引っぱれば、スルッとテツの口から抜けるし、手を出さなくとも、さらに説得を続ければポトリと下に落とす(ことが多い)。
もちろん、ボールを放したら間髪を入れずにホメまくる。
ただ正直なところ、ボールを投げるたびに、蚊に刺されながら、テツの表情をうかがいつつ、時間をかけてこれを繰り返すのは私には辛抱たまらない。
もうひとつはオヤツをつかう方法。
簡単にいえばボールとオヤツの物々交換だ。
テツはボールを私に与え、私はテツにオヤツを与える。そのボールはふたたび私によって投じられ、それを回収してきたテツは、オヤツと交換する権利を得る。
私は何ひとつトクをしないが、テツはボール遊びもできてオヤツも食べられる総取りのシステムというわけ。
これは効く。
どれほど効くかというと、オヤツを見せるのが早すぎれば、はるか遠くでポトリとボールを口から落として(ある意味では高度な遠隔操作であろう)、全力で駆け戻ってきてしまうほどである。
テツは生まれつき交換経済のなんたるかを知っているのではないか(もちろん間違って、だが)。
こうして3回オヤツとボールを交換すると、次の1回や2回は、オヤツなしでもボールを渡す。
その繰り返しである。
目標としてはオヤツなしでボールを渡すようにさせることだが、これにも多少、私の根気が必要となる。
根気がもともとないから、こうやってテツと遊んでいるうち、私はじつにもの哀しい気分に襲われる。
2歳だか3歳になったラブに、いまさらボール遊びのイロハを教えなければならないことに、だ。
子犬のころから、遊びのなかでこうしたこと(自分が執着するモノを人に渡すこと)を教えてあげれば、何ひとつ問題にならないのに、それを怠ったために後々面倒なことになる。
私も中学・高校と、もっと英語を真剣に勉強していればよかったと、あらためて思う。
2009年09月01日(火)
No.43
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