俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

テツの謎(1)




「こら、そこの兄ちゃん、その鼻を引っこめないと怒るよ!」
冷蔵庫に食材を出し入れしている家内のジャマをして、テツが叱られている。
テツはキッチンのどんな細かな動きも気になってしかたがないらしい。

……じつは私にもずっと気にかかっていることがある。

どういうわけで前の飼い主は、いまのいまになってテツを見捨てたのだろうか。
それがわからない。
乱脈パワーの大型犬を見捨てる理由が山ほどあるだろうことは容易に想像できる。
しかし、いったいなぜ、いまなのか。

ラブの悪魔期――途方もなく手のかかる困難で厄介な時期からは、テツは九分九厘抜け出しかかっている。
もうほんの少しのところまできているのだ。
その先には、比類なく素晴らしいラブの黄金期が待っている。
険しい北壁を苦心惨憺して登りきり、ようやく陽のあたるゆるやかな尾根道が見えてきたところで、誰が山登りを断念するだろうか。

前の飼い主がテツにまったく手をかけていなかったのならともかく、それなりに苦労してシツケを入れているのは明らかだ。
最初にセンターで気づいたとおり、飛びつきと甘噛みはかなり抑制されている。
スワレ、フセ、マテもできる。
散歩時の脚側歩行もまずまずのところまできている。
ここまでの苦労に比べれば、これから先は何ほどのこともあるまい。

そういえば、もうひとつ腑に落ちない点がある。
シツケの入り方が、斑(まだら)なのだ。
疑いの目で全体を眺めると、テツの振る舞いはどことなく、パッチをあてたツギハギ細工に見えてくる。
2009年08月16日(日) No.40

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