俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

作業犬



▲やっと晴れた

以前、私は次のように書いている。
私が思うに、ラブ(テツ)の世界は小さな環を形成している。
その環は、人がそのしかるべき位置に嵌(はま)ってはじめて完全なものとなる。

これ、間違っていました。すみません。
私が青かった。
正しくはこう書くべきでした。
私が思うに、ラブ(テツ)の世界は小さな環を形成している。
その環は、人と食(盗み食い)がそのしかるべき位置に嵌(はま)ってはじめて完全なものとなる。

最初の盗み食いのときに、神奈川コパン(神奈川支部)の代表者格がその先を予見するように話していた。
「食べ物を手が届きにくいところに置いたりするのはよけいダメだよ」

「わかっている」と返事したが、根本的なところで私はわかっていなかった。
テツにおいては、いやテツを類型とするラブにおいては、盗み食いをおこなうのに能力の出し惜しみをいっさいしない。通常の家庭では、盗み食いではじめてその秘められた能力を全開するといってもいいくらいだ。
デヘデヘとへりくだったり、だらしなく昼寝ばかりしているからといって、テツが遺伝的に獲得した能力を甘く見てはいけなかった。
テツの意識下では、野生動物が生存をかけて食の獲得に全知全能を傾けるのと、ほとんど同じことをしているのだ。このわが家で。

ラブが卓越しているのは、フレンドリーなところだけではない。
目的に向かうときの集中力、困難を乗り越えるタフネス(ある意味の図太さだね)、知力と体力。
そうしたものが他の犬種にも増して備わっているからこそ、捜索犬、麻薬探査犬、作業犬として重用されるのだろう。

その能力は困難にあたればあたるほど、真価を発揮する。
「手が届きにくいところ」に置かれれば、届くようにありとあらゆる能力を傾注し、結局は手を届かせるのだ。
ハンパな隠し方をするのは、隠さないよりさらに事態を悪くする。

おおむね現在にいたるまで、盗み食いに使用されたテツの能力と意志は、私の(食べ物を隠匿する)能力と意志を上回っていると判断できる。
家を空けるたびに発生する、タッパウェアに入っていたドライトマトが床に散乱していたり(お口に合わなかったらしい)、バナナが房ごと消えたり、手作りクッキーが袋だけ残して消えるといった超常現象の背後からは、テツの上機嫌なハミングが聞こえる気がする。

(私と家内の脳味噌とキッチンの)構造上、わが家で完璧に食べ物を秘匿するのは難しいが、そんなこといっている場合ではない。
冷蔵庫の上、食器棚の上……など、ホコリまみれの遊休地の活用が必要となった。
序盤の予想外の劣勢をはね返し、テツとの知恵比べに勝って、盗み食いへの意欲を根から挫く必要がある。
本気出す。明日からは。
2009年08月14日(金) No.38

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