俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
「排水」の陣
3時間ほど留守番をさせた後、帰宅してドアを開けたときに私の頭にあったのは、破壊された家具の一覧リストの長い列だった。
ところが、まったく破壊の跡はなかった。
破壊の「は」の字すら見当たらない。
だから盗み食い程度ですんだことに内心ホッとしていた。
サンドイッチパンを盗み食いした?
それがどうだっていうんだ。大したことないじゃないか、と。
そのときの私は気づかなかったのだ。盗み食いの長いリストが書かれるのは、これからだった。
次にまたテツに4時間ほど留守番をさせた。
今回は私も盗み食いに気をつかった。
パンの類は冷蔵庫の上に載せたし、テツの手の届くところに魅力的な食べ物はないはずだった。
帰宅すると、床に空の鍋が落ちていた。鍋の周囲は乾いていた。
おお、なんにも盗み食いするものがないから、レンジの上にあった空っぽの鍋をひっくり返したのか。哀れなヤツ。
そう考えて、鍋を元の位置に戻した。秋の空のような心で何ひとつ疑わなかった。
▲落ちた鍋、再現画像
それから2時間ほどたったころだろうか。
「あー、誰かオシッコしてる」と家内の声がした。
玄関のタタキが濡れていた。
このところ、老化のために先住犬にことさらオシッコのこらえ性がなくなっていた。以前はあれほど潔癖だった排泄にしばしば失敗するようになっていた。
だから、先住犬がガマンできずにやったのだろうと考えた。
「かわいそうにね」と話しながら、きれいに水で流した。
30分後、私が玄関を通ると、タタキに立っているテツと目があった。「別にぃ」という表情だった。
なにげに視線を下ろすと、テツの下半身から放出された液体が、いままさに、息子が最近購入したバスケットシューズに降り注いでいた。
「ナニやってんだ!」と思わず声が出た。
まずバスケットシューズを救出すると、テツの首輪をつかんで玄関から外に出した。
テツは庭に出て長々と放出を続けていた。
さては……この前の小水もテツの仕業だったか。
1時間もしないうちに、テツの3回目の放出劇に、またしても私が立ち会うことになった。
今度は玄関を上がった廊下のところで排水を開始していた。
テツは前回の経験で、タタキで小をしてはいけないと学んだらしい。(テツはすべてのことを半分ずつ間違った方向に学習する傾向がある)
やはり「別にぃ」という表情だった。溜まったから出してるだけヨ、と。
出し切るまで、なすすべもなかった。
かくして、わが家の観測史上最高の出水量が記録された。
コイツ、排水管がぶっこわれたのか!?
そこにいたってはじめて、テツのただならぬ排出量と空っぽの鍋の関係に思いいたったのである。
2009年08月12日(水)
No.36
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