俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
暗闘
次にはじまったものは――
バトルだった。果てしない暗闘。
2頭がひたすら絡みあって、相手にむしゃぶりつき、歯を剥き、押さえつけ、払いのけ、また跳びかかる。
それがサイレント映画のように無音でおこなわれる。
ハアハアという荒い息づかいに、ときどきキャーンというくぐもった悲鳴のような抗議のような鳴き声がまじる。
エンドレスでそれが続く。
▲テツの表情はセンターで吠えかかっていたときのそれ。闘いはスタンディングスタイルではなく寝技中心
まわりのものに当たろうが倒そうがまるで頓着せずで、はた迷惑このうえないのだが、しかし、闘いに我を忘れて暴走の本気バトル――というふうにはならない。
2頭のあいだには暗黙の絶対的なルールが存在するかのようである。
マズルにシワを寄せた恐ろしげな表情でしかけていくのはテツのほうであり、よく見ていると、闘いの枠を設定しているのもテツのほうだった。
ごくたまに、痛みを感じてか、プリンがギャンと吠え声をあげてテツに半ば本気噛みで向かうことがあるが、そういうのも上手にいなしている。
自分の大好きなロープをくわえて、プリンの前でそしらぬ顔でブラブラさせて、遊びに誘うのもテツである。
モノに対する執着がわりと強いテツが(この件についてはあらためて書く)、自分のオモチャのロープで遊んであげているのを見て、少し驚いた。
「テツって、いいヤツだなあ」
と、うっかり半分くらい思う。
相似の第3形態——対称型
あれほど「ボクって分離不安。アンタが命」とストーキングに励んでいるくせに、プリンとの闘い遊びになると、呼ぼうが叫ぼうが決して来やしない。
かなり勝手な分離不安である。
10分、20分とエンドレスでこの不気味な闘いが続くのは、さすがに不安になる。
だいいち私のウチは動物園の猿山ではない。プリンの脚のこともあるので、適当なところで終わらせなければと思う。
オヤツで釣って、2頭を引き離して別室に隔離する。
すると、テツはたちまち床に横になって、ぜいぜいと胸を波打たせる。目もつぶって苦しげですらある。
テツにとっては体力的にいっぱいいっぱいらしいのだが、対するプリンは隣室で「もっと遊ぼ」と鼻を鳴らしている。
子犬と地頭(じとう)には勝てぬのか、テツですら。
*ふたたび一緒にすると、またバトルが再開される。バカも休み休みにしてほしい。
2009年08月07日(金)
No.33
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