俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

異種格闘技


けれどもその物理量が、つまりテツの体のサイズが私に与えてくれるものは、こもごもの迷惑をまるごとひっくるめた全部をはるかに上回ると(家内はともかく私は)思っている。

毎日の厳しい共同生活に疲れきった私とテツが木の床の上でだらしなく寝てしまうときがある。
あるとき、そうした眠りから目覚めてみると、私はテツと抱き合っていた。
テツの体温が肌をとおしてじわっと私に伝わってきた。
私は言葉にならない感動を覚えて、部屋のエアコンが効きすぎていた(つまり寒くて互いに抱き合っただけという)事実などは頭から即座に排除された。



体のサイズが近い生き物と、種の壁を超えて、こうして心が通わせられる(ように思える)のは、本当に得がたい体験である。
犬以外のいったいどんな大型動物と、こうやってともに感情をまじえながら暮らしていけるだろうか。
人間とは遺伝子にわずかな違いがあるだけのゴリラやチンパンジーのような霊長類でさえ、同じ家で暮らす人の話は聞いたことがないし、豚や馬、羊とひとつ屋根で暮らせば近所から変人と思われるのがオチだ(いまでも十分思われているわけだろうが)。
同じ人間だって、相手によっては共同生活は願い下げにしてほしいと思うことが少なくない。

唯一、大型犬だけが、異種の大型動物との共生の喜びという奇跡を味わわせてくれる。
いま、上の行の「大型犬」という言葉を「ラブ」に置き換えたい欲求と私は懸命に戦っている。
それほどラブは<テツは>素晴らしい体験なのだ。
だから多少のことはガマンしなければならない——と思わないとやっていけない場合もある。
2009年07月21日(火) No.23

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