俺 流
[ Perro Dogs Home 預かり日記 ]
別れ
ブリと一緒に暮らして1か月半。この間、ブリに腹を立てたことはまったくといっていいほどなかった。
相手がブリだと、なぜかすべてを赦せた。私は決して寛容な人間ではないから、これはきわめて異例のできごとだといっていい。
不意に足にからみつかれて地べたに転倒したときも、小さくない肉体的な苦痛を覚えながら、私は心のどこかに起こった笑い声を聞いていた。
散歩のたびに、家から道路に出るとき、私を中心軸とした円を描きながら、ピョンピョンと上下にゴムまりのように弾んで、猛烈に私を引き回すブリ。引き回されながらも私は、体の底のほうからほとんど愉悦に近い感情が沸きたってくるのを感じ、驚かされた。
ブリと暮らしているあいだに、私のなかの何か薄汚れたものが少しずつきれいに浄化されていくような気がした。
もちろんそれは錯覚にすぎないだろう。けれどもその錯覚は私を楽しませてくれた。どんな娯楽よりも私にはそれが楽しかった。
そのブリに新しい飼い主さんが決まり、私のもとを去った。
そうした別離を何度も経験し、私のなかにはある程度の耐性ができている。
だが今回は、何かが違った。
私がこれほど自制心が強い人間でなければ、「別れの日には、胸にこみあげてくるものがあった」と書いているところだ。
さらばブリ。達者で暮らせ。
2008年10月06日(月)
No.12
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