俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

しつけ3


前の飼い主が、ブリに体系的なしつけを施した形跡はない。

しかし、間違いなくひとつのことはブリに覚えこませている。
どんな場合でも、私が腰をかがめて声をかければ、ブリは急いで戻ってきて、私の前にすとんと座る。駆け戻るのと座るのがワンセットになっている。
また、私が腰をかがめている(座っている)あいだは、横でじっと寄り添うことができる。なにひとつ命じないでも、そうするのだ。

たったそれだけ?
とんでもない。これができるのとできないのでは天と地ほどの差がある。

散歩中にグイグイ引きまくっている最中であっても、鳥の前で固まっているときでも、私が腰を落として呼びかければ、ブリは嬉しそうに私の横に戻ってくる。
あるいは、斜面に座って川の流れを眺めているとき、ブリは傍らに寄り添って私と静かな時間を共有できる。
これが、どれほどの充足感と喜びを私にもたらしているかを考えれば、しつけの意義は明らかだろう。

それに、ブリの排泄物を拾い集めているさなかに引きずり倒される心配もしないですむ。

じつのところ私が、「しつけできなくても、自分がいいからいいんだ」などとうそぶいていられるのは、こうした最低限の下地がブリに与えられているからにほかならない。



ブリが私に与えるささやかな幸福感は、もちろんブリに対する私の態度に反映し、私からの無償サービス提供量の気前のいいほどの増大を生む。そしてそれは、さらにいい影響をブリと私との関係にもたらす。

ひとつのしつけのおかげで、多くのことが好循環に向かう。
他のすべてのことは別にしても、この点だけは前の飼い主に感謝したい。
2008年09月26日(金) No.11

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