俺 流  [ Perro Dogs Home 預かり日記 ]

ロケットスタート


ブリタニーのことをわが家では、「ブリ」と呼んでいる。
最初、「弾丸」を意味する英語の「ブリット=bullet」(bulletをブリットと表記すべきかは微妙だろうが、私にはスティーヴ・マックイーンの抜群にクールな映画『ブリット』の記憶が強い)か、コイツの故郷フランスの言葉で「ブレ=boulet」(同名の抱腹絶倒の喜劇映画があった)という呼び名にしようと考えたのだが、まあ、例によって私の弱った頭に負担をかけないロハスな方向にいったのである。

ブリの瞬発力は強大だ。単純に力比べをすれば、もっと力の強い大型犬はいるだろうが、ブリには力をいっさい抑制しないというアドバンテージがある。

とくに静止状態からの爆発的な飛び出しは強烈無比。私はこれを「ロケットスタート」と呼んでいる。道路に面した門扉の前でマテをさせてから、門扉を開く。安全を確認するためにまず私が外にでて「ヨシ」と声をかけると、強力バネで弾きだされたように飛びだしてくる。その勢いたるやすさまじく、こちらが不用意な態勢でいれば、リードで強く引かれた肩や肘を傷める可能性もある。



先日、センター多摩支所に保護犬の引きだしに行ったのだが、その際、思いがけずブリタニー談義となった。
私がブリタニーの話をすると、職員さんが相好を崩して「私も飼っているんですよ」と応じてきた。引きとり手がない収容犬のブリタニーを見かねて、自宅に連れ帰ったのだという。
初対面のその職員さんとの距離が、一気に十分の一に縮まった気がした。

「ムチャクチャ引いて大変ですよね」
(学齢に達した子どもを持つ母親同士の子ども談義と同じ作法で私は会話をスタートした。つまり、わが子のダメな点の提示から。ブリの場合は謙遜どころか事実そのままであるが)
「いや、そんなではないですよ」
「えっ、猫とか鳥とか見ても大丈夫ですか」
「ああ、それはダメですねえ。セットしちゃいますから」
「出だしが強烈じゃないですか」
「うーん、たしかにGOを出すと、ズドンと行きますね」

少し話しただけで、職員さんのブリタニーが「私のブリ」に比べて相当にデキがよろしいらしいことがわかってきた(=飼い主のデキの差)。縮まった職員さんとの距離がふたたび開いた感じがした。

だが、この出会いを通じて、いくつかの共通するブリタニーの特徴点が見えてきた。
ひとつは、ブリタニーの飼い主同士が出会うと思わずブリタニー談義をはじめてしまうという事実。
猫や鳥を見ると強く反応すること。
静止状態からの強力なダッシュ力。

最初のひとつ以外は、何代にもわたって鳥猟犬として深く刷り込まれたものであろう。

そしてそれは、いい飼い主さんの手にかかれば、(強烈な個性は残しながらも)十分にコントロールされるということだ。
2008年09月08日(月) No.5

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